娘剣客から夫婦剣客へ―「剣客春秋」の新展開

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鳥羽亮さんの『剣客春秋 里美の涙』を読んだ。一刀流中西派の千坂道場の道場主・千坂藤兵衛と娘・里美が活躍する人気剣豪小説シリーズの第6弾である。前作『恋敵』で、門弟の彦四郎と所帯をもった里美がどのような新妻ぶりを見せるか興味津々で読み始めた。

剣客春秋―里美の涙 (幻冬舎文庫)

剣客春秋―里美の涙 (幻冬舎文庫)

剣客春秋―恋敵 (幻冬舎文庫)

剣客春秋―恋敵 (幻冬舎文庫)

藤兵衛は、一刀流中西道場で同門だった飯岡に行き会い、一刀流だけでなく、神道無念流、鏡新明智流、心形刀流、槍や薙刀の達者を集めた、武芸全般を教える大武芸所の設立の計画を聞く。そして、その武芸所の師範役を請われる。

時同じく、江戸で「大塩党」と名乗る集団による強盗騒ぎを耳にする。大塩平八郎が大坂で乱を起こし、捕らえられたのは一昨年だが、その残党を名乗る者が越後で決起し、代官所や庄屋の屋敷に押し入って金品を奪った。そうした事件に誘発されたのか。大塩党は押し入る前に目星をつけた大店に立ち寄り、主人にそれとなく軍用金の拠出を要求するという。拠出金は店によって異なり、十両から二十両ほどで、言われたとおりに金を出せば、その店には押し入らず、断った店には後日徒党を組んで押し入り、有り金残らず強奪するのだという。

そして、亡妻の実家である米問屋の藤田屋にも大塩党から軍用金の拠出を要求する投げ文があった…。

里美は彦四郎と所帯を持ってからも、これまでと同様に島田髷や丸髷ではなく、根結い垂れ髪に、若侍のように小袖に小倉袴をはき、二刀を帯びて町を歩き、千坂道場の指南役を続けていた。彦四郎も同じく指南役を務めているので、「夫婦剣客」といったところか。本書に、そんな新しい二人の関係を描いたシーンが用意されていた。

「彦四郎さま、死ぬのはいっしょでございます」

 そう声を上げ、里美は彦四郎に身を寄せて肩先を合わせた。里美は斬られるなら、彦四郎といっしょに斬られようと思った。肩先から彦四郎の体の感触と躍動が伝わり、肩先の血が里美の肩にも染みてきた。

 そのとき、里美は心が急に軽くなったような気がした。彦四郎と一体になれたような気がしたのである。

 里美の心から恐怖が消え、体の硬さがとれた。

「里美、われらは一身ぞ!」

 彦四郎が言った。彦四郎の体からも硬さが取れ、双眸が闘気で燃えるようにひかっている。

(『剣客春秋 里美の涙』P.191より)

剣の道では成長途上の二人が力を合わせることで、絶体絶命の危機に立ち向かっていくところが面白い。父子の剣豪ものはいろいろあるが、夫婦で剣客というのはユニークだ。

おすすめ度:★★★★