「元禄畳奉行」が活躍する時代小説

池端洋介さんの『元禄畳奉行秘聞 幼君暗殺事件』を読んだ。主人公は、五代将軍綱吉の時代から、八代将軍吉宗の時代にかけて、日々克明な日記を書き続けた、尾張藩士の朝日文左衛門(重章)。二十六年八カ月に及んだ、その日記は、『鸚鵡籠中記』と名付けられ、神坂次郎さんの『元禄御畳奉行の日記』として、現在知られている。

元禄畳奉行秘聞 幼君暗殺事件 (だいわ文庫)

元禄畳奉行秘聞 幼君暗殺事件 (だいわ文庫)

元禄御畳奉行の日記 (中公文庫)

元禄御畳奉行の日記 (中公文庫)

本書は、元禄七年(1694)の時代設定で、文左衛門は、尾張家三代当主の徳川綱誠(とくがわつななり)にお目見えするために、お城に参上するところから始まる。お目通りがかなわなければ、隠居願いを出した父定右衛門の家督を継ぐことができず、家督を継げなければ俸禄をいただけないから必死であった。

生まれて初めてお城の門をくぐった文左衛門は、荷物運びの一行と間違われて二の丸御殿の奥に入り込んでしまい、曲者と間違われ、爺とお供の侍を斬られて隠れている子どもと出会った。そして、命を狙われているその子ども・藪太郎を連れて城外に抜け出すことに成功したが…。

本書は、だいわ文庫の書き下ろしで書かれた「元禄畳奉行秘聞」シリーズの第一弾である。だいわ文庫では、江戸南町奉行で、『耳袋』の筆者である、根岸肥前守鎮衛を主人公「耳袋秘帖」(風野真知雄著)シリーズで成功を収めている。同じ着目点で生まれたシリーズのように思われる。「奉行」と付くはいえ、畳奉行は元禄のころから普及してきた畳の取り替えや修繕などの御用を管理する新設の職務。日記魔であり、文弱なイメージの朝日文左衛門がどのように事件に立ち向かうのか、興味深いところ。

耳袋秘帖 赤鬼奉行根岸肥前 (だいわ文庫)

耳袋秘帖 赤鬼奉行根岸肥前 (だいわ文庫)

とはいえ、文左衛門は、百石の出であり、あまり華々しい活躍は期待していなかったが、読み始めてぐいぐいと引き込まれて、一気に読破してしまった。文左衛門は、家督相続前の若者ということもあり、さまざまな事件に遭遇しながら成長していくところが描かれていて、ビルドゥングスロマン風の物語になっていて、面白く読める。

 年を追うごとに財政緊縮の風潮が強くなっている尾張藩では、去年(元禄六年)の五月末から簡略奉行という役職が設置され、奢侈取り締まりを厳重に執り行うようになっている。

 その手先となって働いているのが簡略廻りという足軽たちで、柿色の羽織を着ていることから、俗に柿羽織と呼ばれ恐れられていた。

(『元禄畳奉行秘聞 幼君暗殺事件』P.186より)

また、もうひとつの魅力は、作者が『鸚鵡籠中記』をはじめ、当時の名古屋城下の様子や町並みなどを丹念に調べて、物語の背景にうまく取り込んでいることで、知的な楽しみも大きくなっている。名古屋城下をしっかりと描いた時代小説はほとんどないだけにその点からも貴重な作品といえる。文左衛門の次なる活躍が早く読みたいところだ。

おすすめ度:★★★★