疲れた心を浄化してくれる人情時代小説

昨夜は、会社の同じ事業部でアルバイトで勤めてくれたOさんの送別会だった。Oさんは、感情に左右されることが少なく淡々としながらも、確実に与えられた仕事を進めてくれる。ミスが少なく、気が利くところがあり、得難い存在だった。昼食時はいつも本を読んでいるような文学青年ぽいところも、今どきの若者には少ないタイプ。6月から旅行ガイドなどの編集をする出版社で社員として働くということで、夢に向かってがんばって欲しい。

今井絵美子さんの『夜半の春』を読んだ。照降町で自身番書役を務める喜三次を主人公にした市井時代小説「照降町自身番書役日誌」シリーズの4作目である。訳あって武家を捨て、町人として照降町の自身番を務めるようになった喜三次と彼を取り巻く町の人々を描いた第一作『雁渡り』。貧しいながら人情味豊かに助け合って暮らしていく町の人々を描く『寒雀』や、切ない男女の恋の行方を描く『虎落笛』など、一作一作、江戸の市井に暮らす人々の心の哀歓が描かれて、読んでいるうちにこちらまで浄化されていくような物語ばかりだ。

雁渡り

雁渡り

虎落笛―照降町自身番書役日誌 (廣済堂文庫)

虎落笛―照降町自身番書役日誌 (廣済堂文庫)

自分と同じ不幸な境遇な女二人を幸せにしようと二つの家庭を築いた男。二つの家族を同じように愛して懸命に生きた男の数奇な運命。それに対比するような、幼なじみに騙されて古手屋(古着屋)を潰した末に、酒びたりの生活を送り家族に苦労をかけるようになった男が最後に見せた矜持が描かれた表題作をはじめ、今回もジーンと胸に響き、ちょっと切なくなる4話が収録されている。

主人公の喜三次らが集まる、居酒屋お多福の女将、おてるの存在が魅力的。体躯は女相撲の力士のようで顔も店名の由来のようにお多福だが、商売度外視で、料理が旨く、温かい人柄で、客の居心地を良くする気遣いがある。こんなスポットがあったら、仕事に疲れた帰りに立ち寄りたいなあと思う。物語の中でも重要な役割を演じている。

第4話の「残りの菊」では、髪結床の女主人おたみの元の師匠との関わりを描いているが、当時の女性の結髪について細かく触れていて興味深い。