歴史・時代小説ファン必携 江戸の旗本事典

歴史・時代小説ファン必携 江戸の旗本事典歴史・時代小説ファン必携 江戸の旗本事典

(れきし・じだいしょうせつふぁんひっけい・えどのはたもとじてん)

小川恭一

(おがわきょういち)
[江戸入門]
★★★★

江戸学の巨星、三田村鳶魚さんの最後の弟子というキャッチフレーズがついた、小川恭一さんの『江戸の旗本事典―歴史・時代小説ファン必携』を読了。

いろいろな時代小説を読むと、旗本という存在がどんどんわかりづらくなっていく。いろいろな職能や石高、生活ぶりなどが、混同されていたり、作品中での説明が現代人には不十分なものだったりして、漠としかわからなかった。『江戸の旗本事典―歴史・時代小説ファン必携』は、文庫ながら事典というタイトルに偽りはなく、「旗本八万騎(実際には寛政十一年末で五千百八十六家だったらしい)」の本当の姿が明らかになった。御家人との違い、交代寄合衆、幕府の人事と組織、御目見から死亡届まで、興味深い読み物になっている。

とくに「旗本の経済学」の章は、ためになった。旗本の序列を、(1)知行取り(石表示で生産地を支配する。石表示の約35%が収納率) (2)蔵米取り(俵表示。百俵で三十五石。年三回家禄を支給され、百俵につき金一分で札差より蔵米を受け取る) (3)現米取り(現米石表示。正味で現物を受け取る) (4)扶持取り(人扶持表示。一人扶持は一日に玄米五合が支給され、年一石七斗五升が支給される)と、明示している。

幕臣家禄については一石=一俵、現米三十五石=百俵、一人扶持=五俵で換算できる。なお、支給される米は玄米で、白米(精米の際に20%搗き減りする)や籾付米(倍の石数になる)ではない。家禄表示には必ず「高五百石」「高二十人扶持」のように高を入れるのが正しいとのこと。

さあ、時代小説を読むのが楽しくなってきた。

読みどころ●時代劇や時代小説はもとより、解説書にみ、旗本身分についての誤記が多いという。それくらい複雑な幕府の制度・身分について、わかりやすく解説する。徳川家直参という言葉の意味するものは何か。家督相続のしかた、昇進・給与、家計、江戸城中の作法、隠居……。間違いだらけの旗本の本当の姿に迫る好著。時代小説を読む際に、手元に置いておきたい一冊。

目次■はじめに|第一章「旗本八万騎」の実像(『武鑑』とは何か?/書いてあること、載ってないこと/『武鑑』は大名行列見物客のガイドブックだった!?/出自さまざま/御家人とどう違うのか?/寛政十一年末で五千百八十六家!/「御目見以下」の人びと/大久保彦左衛門の「立場」/吉良上野介の「仲間たち」/悲願二百八十余年!)|第二章 幕府の人事と組織(『大概順』とは何か/誇り高き大番/両番/新番と小十人/各家の番筋/御番入は物入り/寄合で待命中/家禄のある浪人?)|第三章 旗本のライフサイクル(旗本の「戸籍」/通過儀礼さまざま/初御目見/家督相続/隠居するにも一苦労/矍鑠たる幕臣たち/死亡届のからくり/終の住み処は)|第四章 「イエ」制度のなかで(本家と分家の微妙な関係/敵対の家、友好の家/義絶つかまつり候/同族養子から持参金養子へ/厄介という存在/部屋住・養子で幕府高官/「戸籍」の偽造――「旗本株」はあったか?/頼み親と直家督/川路聖謨・井上清直兄弟のばあい/三十両から町奉行)|第五章 旗本はつらいよ(婿養子に入るまで/「小糠三合」どころではない/小田原大久保家のばあい/嫁入り費用の捻出法/熟縁の様子ござなく候/行跡よろしからず/北条家の減禄/葵の紋服で吉原通い)|第六章 旗本の生活は退屈か?(登城は馬? それとも駕籠?/煩雑な衣服のルール/年中行事と登城日/日勤、泊まり勤務/書院番士のいじめ/病欠/外泊は不可/遠馬と遠足/墓参りと入鉄炮)|第七章 旗本の経済学(知行取り/米によるサラリーマン/役料から足高制へ/経済に明るくないと/腰にはいつも名刀正宗/長崎奉行二千両/贈り先のある人/旗本の年収は今なら何万円?/三十俵三人扶持の生活)|第八章 経営者としての旗本(拝領屋敷/地代収入を得られるのは拝領町屋敷だけ!/大きい屋敷、小さい屋敷/親族との同居/家来を何人雇えるか?/柴田勝家の子孫の家計事情/家法集とは何か/倹約十年の結果は……/ドケチ旗本)|むすびに/あとがき/文献索引/主要事項索引/主要人名索引

カバーデザイン:竹元良太
解説:細谷正充

(講談社文庫・667円・03/09/15第1刷・423P)
購入日:03/09/15
読破日:05/08/19

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