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絶世の美少女が一夜にして醜い老女へ変貌、幻想的な戦国時代小説

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うばかわ姫越水利江子(こしみずりえこ)さんの『うばかわ姫』(白泉社招き猫文庫)を読みました。

十九歳の野朱(のあけ)は、東国へ嫁入りの旅の途中、琵琶湖の畔で、夜盗の一団に襲われ逃げる。淵で出会った老女と小袖を交換し、窮地を助けられる。
ところが、老女が貸した小袖は『姥皮(うばかわ)』で、娘の姿を醜い老婆に変えるものだった……。
野朱は、眉はおぼろの三日月のごとく、黒目がちの瞳は濃い睫毛に縁どられ、紅をささずとも唇は桜の蕾にも似て、その美貌は、京や近江の商人が持ち回る絵姿によって、西国ばかりではなく東国にも知れているほどの美貌の持ち主だった。

姥皮は、姥ヶ淵の水に姥砂がまじったもので、姥砂をくぐれば、人の目には姿が変わって映るもの。

 野朱は悲鳴をあげた。淵の水に映ったおのれの姿は、ぼうぼうと真っ白な乾いた髪の老婆であった。皺深く、小さく縮んだ顔が水面にさざめいている。と、天上で、この夜の月がまるく満ちた姿を現し、淵の面がゆらりと輝いた。刹那、水面の老婆の姿は、光る砂がこぼれ落ちるようにするりと脱げて、野朱の顔も姿も、元通りの若い娘にもどっていた。

夜盗に襲われて供の者とはぐれた野朱は、東国へ旅立つことができずに、湖のほとりで一人で暮らすことになります。しかも、姥皮のせいで、満月の夜以外は、醜い老婆の姿で。

老婆姿になって美貌を失って絶望した野朱の前に、五重七層の天守閣(=安土城)の住人である貴人とその従者(森乱丸)が現れ、魑魅魍魎に襲われるところを助けます。

「お前にはこの身体が呪いのように思えるかもしれぬが、俺にとっては宝とも言える。お前は、たった一日の間に、人の生涯垣間見せてくれる。若く美しい驕りの日々がいかに儚いか、老いた日々がいかに愛おしいか……。それを、お前は、俺に教えてくれるのだ。そんな女がこの世に二人といるか?」

近江水軍の若者・豺狼丸(さいろうまる)は、野朱の年老いた姿に亡き母を思い、恋焦がれていきます。

――姥皮は、お前の身内に、生きるための気が、心底から湧き上がってきたその時に、おのずと脱げるだろうよ。この世の魔や病いというものは、すべて、人間そのもの気に操られるものじゃ……

姥が淵の老女は、かつて野朱にこんな言葉を掛けました。野朱は、老女から呪いをかけられて老醜した姿に変えられたのではなく、生きるため、自分を守るための術を習得するまでの楯として、姥皮を与えられたのだと気づきました。

自身の外見の魅力のみを武器に生きてきた女性が、それを失った後の世界を体験し、一番大切なものとは何かを知ります。

おとぎ話のような設定で、湖の畔を舞台に幻想的なシーンが描かれていきますが、戦国時代を巧みに物語に織り込みながら、女の業と愛、幸せを描く新感覚時代小説に仕上がっています。普段、時代小説を読まない方にもおすすめの作品です。

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『うばかわ姫』