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信長の棺

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信長の棺信長の棺

(のぶながのひつぎ)

加藤廣

(かとうひろし)
[戦国]
★★★★☆☆

小泉首相の愛読書として、衆議院選挙中に取り上げられてベストセラーになった話題の書。ベストセラーになった『信長の棺』は、やはり面白かった。桶狭間の合戦の謎から本能寺の変で信長の遺体喪失の謎までを、最新の信長研究に独自の解釈を加え、読みごたえのある作品になっている。成功の最大の要因は、「信長公記」の作者太田牛一を物語の主人公にしたことだと思う。語り部でもある老年期に入った牛一は、70歳を過ぎて時代小説家デビューした作者の分身でもあるように思え、読者に共感を持ってもらいやすい。信長信奉者の筆頭ともいえる牛一を主人公としたことで、多くの信長ファンの心も捕らえている。

秀吉の依頼で信長の伝記を書いた牛一が、秀吉の前で内容の確認をするシーンが印象に残る。秀吉の凄みと卑しさ、個性がうまく描かれている。次回作ではもっと秀吉を描いてほしいと思う。

「捨万求一(しゃばんきゅういつ)」という言葉が出てくる。「一事を必ず成さむと思はば、|他の事の破るるをもいたむべからず|人の嘲りをも恥づべからず|万事にかえずしては|一の大事成るべからず」という『徒然草』百八十八段の一文の意味を四字にまとめたもの。主人公の牛一に送られた言葉である。郵政法案のワンテーマで、衆院選を大勝利した小泉首相の秘密がここにあるように思われる。

物語を読んでいて、早くから秀吉に仕え、蜂須賀小六とともに、秀吉の影の軍団の将として活躍した前野将右衛門長康の存在が気になった。少しこの人物を追ってみたくなった。

本能寺の変を描いた作品というと、寺に集まった六人が、一夜ずつ、自分の人生を変えた「本能寺の変」を語るという趣向が新鮮だった『本能寺六夜物語』と、信長の偉業の後継者に明智光秀をと考えた設定が面白い『本能寺』が思い出される。

物語●信長が上洛して二日がたったその日、側近の太田信定(後の牛一)は密命待機の姿勢に入っていた。出立の前夜、信長は信定に木箱を預け、今回の上洛の目的が果せたら、早馬で知らせるので、持参の上、京に駆けつけるように命じた。預けられたものは、一見したところ大工の道具箱と見間違いそうな檜材の長方形の箱が五つ。鉄鋲で厳重に封印されていて、恐ろしく重かった。そして、信定のいる安土城に、明智光秀の謀反、織田信長の宿所・本能寺炎上の知らせが届いた…。

目次■第一章 安土脱出/第二章 市中の隠・太田牛一/第三章 捨万求一/第四章 舟入学問所/第五章 隠れ里・丹波/第六章 吉祥草は睡らない

装画:水口理恵子
装幀:間村俊一

時代:天正十年六月二日
場所:安土城、清洲、越前大野、能登、松任、伏見城、大坂天満、本能寺跡、愛宕権現、水尾ほか

(日本経済新聞社・1,900円・05/05/24第1刷・05/09/12第8刷・423P)
購入日:05/09/28
読破日:05/10/16

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