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空白の桶狭間

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空白の桶狭間

空白の桶狭間

(くうはくのおけはざま)
加藤廣
(かとうひろし)
[戦国]
★★★☆☆☆

『信長の棺』で本能寺の変の謎に挑んだ作者が、桶狭間の戦いの謎に挑んだ歴史ミステリ。

桶狭間の戦いというと、小勢の信長軍が大軍を擁する今川義元の首を獲り、飛躍のきっかけをつかんだ戦いとして知られる。しかしながら、迂回奇襲にしろ正面対決しろ、接近する信長本隊を義元本陣がまったく気付かずにいて、大将の首を獲られることはわかりづらい。そんな疑問に対しての答えを提示したのが、加藤さんのこの作品である。

駿河に弱点があるとすればたった一つ。
(今川義元自身よ)
と、藤吉郎は見た。
「義元自身」といっても、義元の戦国武将としての才腕云々ではない。

<中略>

惜しむらくは、武士としての基礎体力と体型に欠陥があったのである。
(『空白の桶狭間』P.76)

主人公は、若い日の秀吉=藤吉郎。才気煥発で、明朗なそのキャラクターがうまく生かされている。物語では、藤吉郎の出自を〈山の民〉としている。〈山の民〉とは、平安中期の摂政関白藤原道隆の庶子道宗の血統で、天皇家を崇拝していたという。

加藤さんが描く秀吉に興味が湧いてきたので、長編の『秀吉の枷』も読みたいと思う。(秀吉というと晩年の老醜をさらしたイメージが強くて苦手だったのが…)

物語の中で、数字に強い藤吉郎が百人の部隊と八十人の部隊の兵力差を信長に説明するシーンがあった。
100^2-80^2=10000-6400=3600=60^2
つまり八十人の部隊が全滅し、百人の部隊では四十人が死に、六十人が生き残るという計算である。
これは、ランチェスターの第二法則である。ランチェスター理論を説明するとき、信長軍や秀吉軍の戦い方を例としてあげることがあるが、物語に取り込んだのは面白い。経営コンサルタントをされていた作者ならではといったところか。

主な登場人物◆
木下藤吉郎(後の秀吉):織田家足軽頭
なか:藤吉郎の母
小竹:藤吉郎の弟
蜂須賀小六正勝:藤吉郎の同郷の先輩
前野小右衛門:小六の盟友
織田信長:尾張の領主
織田信広:信長の異母弟
船七:信長の配膳係の長
服部小平太:信長の家臣で槍の名手
毛利新介:信長の家臣
今川義元:駿河の領主
岡部五郎兵衛元信:義元の家臣で、鳴海城主
松平元康:今川家の人質、後の家康
本多弥八郎:元康の側近
本多忠勝:元康の側近
吉乃:信長の側室
生駒八右衛門:吉乃の兄
沢彦:政秀寺の住持
清玉:阿弥陀寺の開祖

物語●永禄二年五月、織田信長による尾張統一がなった。しかしながら、圧倒的な軍勢を誇り駿河・遠江・三河を支配する今川義元は、尾張侵略を進めようとしていた。自らの出自を後ろ盾に、立身出世を目論む藤吉郎(若き日の秀吉)は、策をめぐらす信長にある進言をする…。

目次■第一章 秘めたる願い/第二章 密偵行/第三章 内なる戦い/第四章 空白の激突/第五章 それぞれの桶狭間/終章 消えた合戦譚/解説 雨宮由希夫

カバー装画:右田年英「今川義元 桶狭間大合戦之圖(豊明市立図書館所蔵)
装幀:新潮社装幀室
解説:雨宮由希夫
時代:永禄二年(1559)五月
場所:尾張丹羽郡宮後村、愛知郡中村、清洲城、鳴海城、丹下砦、桶狭間山、三国山、沓掛城、岐阜城、ほか
(新潮社・新潮文庫・476円・2011/10/01第1刷・319P)
購入日:2011/11/21
読破日:2011/12/02

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『空白の桶狭間』(加藤廣・新潮文庫)