戦国の世を駆け抜けた、くせもの武将たちの胸躍らせる物語

くせものの譜箕輪諒(みのわりょう)さんの『くせものの譜』(学研プラス刊の単行本)を読みました。丹羽家の敗者復活劇を描いた『うつろ屋軍師』でデビューし、蜂須賀家二代目家政の半生を描いた『殿さま狸』で時代小説の目利きたちの高い評価を得た著者の第3作目です。

本書の主人公は、仕えた主家が次々と滅びるために「厄神」と呼ばれた武将・御宿勘兵衛(みしゅくかんべえ)を主人公に、武田家滅亡から大坂夏の陣まで、戦とともに生きた勘兵衛の半生を描いた歴史時代小説です。

武田信玄の孫との噂もある勘兵衛は、信長亡き後、空白地帯となった甲信二国の争奪戦、天正壬午の乱では、「武田家再興」を目指す依田信蕃に振り回されます。使者として真田昌幸と対面することによって、二人の戦巧者の深謀を知り、己が戦うことの意味を問い始めます。

 勘兵衛は、ようやく気づいた。認めたくなかったのだ。初めて、主家を失った。居場所も、生きるための基準も、なにもかも失ってしまったことを。
(『くせものの譜』P.42より)

その後、越中国主・佐々成政のもとに身を寄せたり、秀吉の小田原征伐時に北条家に仕えて岩付城に出没したりします。北条家滅亡後、徳川家康に召し出されながらも徳川家を退転して結城秀康のもとに逃げ込むと、秀康は家老として一万石で召し抱えます。

本書の物語の構成は見事です。「第一話 虎跡の人」「第二話 知らでや雪の」「第三話 野本将軍」で、勘兵衛をはじめとするくせものたちの人物像とエピソードが紹介されていきます。そして、そのくせものたちが「第四話 くせものの宴」の章で、越前家に集結します。

越前家は、秀康の嫡男・松平忠直が家督を継いで五年。二番家老の今村掃部が忠直の実母とその兄を味方に引き込み、藩政を壟断しようとしていた、越前騒動が描かれています。越前松平家に集まった強者たちがそれぞれくせものぶりを発揮して面目躍如というところが見どころのひとつです。

そして、その後日談としてもう一つのクライマックス、大坂の陣が描かれる「第五話 荒野へ還るものたちへ」と進みます。ここでは、勘兵衛と対比して真田幸村が描かれていて興味深いところです。

この作品を読むまで、御宿勘兵衛については、大坂夏の陣における傍役の一人という認識しかありませんでした。

 真田幸村の名は、歴史の中で不朽のものとなるだろう。そして、その眩いほどの栄光の影で、御宿勘兵衛の名は忘れられていくだろう。
 だとすれば、勘兵衛のしたことは無意味だったのだろうか。英雄に焦がれながら、英雄になれず、なにも為すことなく死んでいったあの男の生涯は、なんの意味も価値もないものなのだろうか。
(わしは、そうは思わない)
 なにも為せなかったことが、初めから、なにも為そうとしなかったことと同じだとは、右近にはどうしても思えない。
(『くせものの譜』P.333より)

箕輪さんは、本書で新しい戦国ヒーローを発掘しました。戦国ヒーローものとして楽しめるばかりでなく、歴史の面白さにも触れられる傑作戦国時代小説です。

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『くせものの譜』
『うつろ屋軍師』
『殿さま狸』