幕末という時間軸で、魅力全開の佐伯作品

佐伯泰英さんの『風雲 交代寄合伊那衆異聞』を読み終えた。激動の幕末という時間軸が、波瀾万丈で展開の大きなストーリーとぴったりマッチして、今回も文句なしに面白かった。

交代寄合伊那衆座光寺家の若き当主、藤之助為清は、座光寺家に伝わる戦場往来の剣技信濃一傳流の遣い手。江戸では千葉道場玄武館に入門し、さらに剣術を磨いていた。その玄武館に、五尺三寸の長竹刀、それも左利きを利しての左手片手突きを得意とする武芸者熊谷十太夫が現れ、立合った高弟の一人の喉を突き破り大怪我をさせた。道場主の千葉道三郎の代わりに立合った藤之助は、天を突く大きな構えで応じた……。

異国の大艦が日本に押し寄せる危急のとき、剣に生きる藤之助に、老中首座堀田正睦より長崎行きの命が下る……。

「激変する時代に剣を目指すはなにゆえか」

…<中略>…

「戦国時代の大筒と異国の最新の大砲を比べれば、彼我の差は明らかにございます。われらが生き残るために異国の軍事力、科学力を学ぶは当然のことにございましょう。だが、彼我の差は一朝一夕では埋まりませぬ。われら、臥薪嘗胆の季節を耐えねばなりませぬ。その折、古来の武術で肚(はら)を練り、肝を鍛えることが役に立とうかと思います。座光寺藤之助が剣を学んできたのはそのためにございます」

『風雲 交代寄合伊那衆異聞』P.131より

引用は、老中の堀田正睦から命が下り、その命を受けた後の藤之助の返答。日本男子、ここにありといった感じの、胸がすっとするようなセリフである。坂本龍馬や桂小五郎ら幕末に活躍した偉人たちが、若き日々、江戸で剣術の修行に明け暮れた理由も同じような思いからだったのだろうか。

新しいヒロインとして、長崎の町年寄高島了悦の孫娘で、拳銃の名手、高島玲奈が彩りを添える。剣豪小説から幕末小説へ転換を見せるシリーズの今後の行方がますます楽しみになった。

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風雲<交代寄合伊那衆異聞> (講談社文庫)