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一朝の夢

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一朝の夢
一朝の夢
(いっちょうのゆめ)
梶よう子
(かじようこ)
[捕物]
★★★★☆☆

この作品は第15回(2008年)松本清張賞受賞作品。松本清張賞は、山本兼一さんの『火天の城』、城野隆さんの『一枚摺屋』、葉室麟さんの『銀漢の賦』など、すぐれた時代小説の受賞が多い。解説の細谷さんは時代小説を対象にした賞が少ないためではないかとおっしゃっている。

主人公中根興三郎は、北町奉行所で両組御姓名掛り。奉行所員の名簿作成役という閑職に就き、黄色い朝顔を咲かせることを夢に、朝顔栽培を生きがいにしているという設定。これまでいろいろな時代小説を読んできたが、この役職に就く同心を主人公にした作品は初めて。

この作品の魅力の一つが、朝顔栽培に熱中する主人公がきちんと描かれていること。興三郎は朝顔に魅せられて、二十年近くも朝顔栽培を続け、江戸の朝顔界でも、その研究熱心な栽培ぶりで知られた存在。朝顔に関する薀蓄が楽しく、朝顔ブームの様子、交配や育成方法など生き生きと描かれている。

朝顔オタクともいうべき“朝顔同心”の興三郎が趣味の世界を通じて、新しい人と交わり、事件に巻き込まれ、成長していく姿を描く。同時に、当時の社会や政治状況、事件、有名人物も巧みに織り込まれて、傑作の幕末時代小説にもなっている。物語の後半で、これはすごい作品だと思った。

主な登場人物◆
中根興三郎:北町奉行所両組御姓名掛り同心
藤吉:興三郎の小者
西沢里恵:新右衛門町の「めし処」のおかみで、興三郎の幼なじみ
小太郎:里恵の一人息子
成田屋留次郎:下谷の植木職人
松本一悟:本草学者で、星陵塾の塾長。興三郎の学問の師
高木惣左衛門:北町奉行所与力で、興三郎の義弟。
千紗:興三郎の妹で惣左衛門の妻
富田屋徳兵衛:日本橋の質屋
鈴や佐久左衛門:日本橋の雑穀問屋の主
矢田部耕造:鈴やの用心棒
村上伝次郎:興三郎と同役の同心
村上登也:伝次郎のひとり息子で、下馬廻り同心見習い
木田六郎:浪人で登也の攘夷仲間
三好貫一郎:星陵塾で学ぶ上州浪人
芳次:留次郎の下で働く植木職人
杏葉館:五千石の旗本鍋島直孝の号。江戸朝顔界の重鎮
宗観:杏葉館の友人

物語●彦根藩主の井伊直弼が大老になり、その強硬な政治姿勢から反対勢力の動きも激化し、町奉行所の仕事も忙しくなっている頃。尊皇攘夷の機運の高まりとは無縁の主人公の中根興三郎は、幼なじみの里恵にあげた朝顔がもとで、宗観という身分の高い武家と知り合いになる。折りしも辻斬りに遭って絶命していたはずの武家の死体が忽然と消える事件が起こっていた…。

目次■一朝の夢/解説 細谷正充

装画:西のぼる
デザイン:中川真吾
解説:細谷正充
時代:安政五年(1858年)
場所:北町奉行所、新右衛門町、八丁堀(熊本藩細川家下屋敷の裏通り)、京橋、浅草寺本殿裏手の奥山、今戸町、日本橋本石町二丁目、モチノキ坂下、本八丁堀、不忍池、柳橋ほか
(文藝春秋・文春文庫・590円・2011/10/10第1刷・310P)
購入日:2011/10/11
読破日:2011/10/14

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