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なにわ人情謎解き帖 天満明星池

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人情派同心と梓巫女見習いが難事件に立ち向かってゆく

なにわ人情謎解き帖 天満明星池加瀬政広(かせまさひろ)さんの時代小説、『なにわ人情謎解き帖 天満明星池(てんまみょうじょういけ)』(双葉文庫)を紹介します。

著者の加瀬さんは、「ミスター味っ子」「魔法陣グルグル」のキャラクターデザインや「忍たま乱太郎」の作画監督で活躍した人気アニメーター。2012年、時代小説作品『慕情二つ井戸』で第34回小説推理新人賞を受賞し、2015年、『天満明星池』で単行本デビューされていいます。

大坂・四天王寺の門前で発見された若い男女の刺殺体、町奉行所の同心である鳳大吾は、女に見覚えがあった。死者の魂を呼び出す梓巫女として評判の紅葉だ。その店を訪ねた大吾は、見習いの娘であるお駒と出会う。口寄せの才能は今ひとつでも、話し相手の心をすっかり開いてしまうお駒。穏やかな人柄と謎解きの見事な閃きで、手下や町人に慕われている大吾。二人は絆を深めながら、数々の難事件に立ち向かってゆく。

時代は嘉永五年(1852)九月、西町奉行所吟味役同心の鳳大吾(おおとりだいご)と、梓巫女見習いの盲目の娘・お駒の二人がコンビを組んで、お駒の姉弟子・紅葉による若い男殺し(無理心中)の疑いを晴らすために、行動をともにします。

「お言葉ながら、イタコ、口寄せなどという者が申す事は万事、一から百まで嘘デタラメでございましょう。わたしは到底、信じる事などできません」
 お美津がたまらず声をあげる。
「そう申すな。やってみなくばわからんではないか。さぁ、お駒、口寄せにて、亡き紅葉の御霊をここに呼び出してみよ」
 その言葉に有無を言わさぬ響きがあった。
「ええ! もう?」
 お駒はそう小声で叫ぶやいなや、
「どないしまひょ。まだ、紅葉姉ちゃんの言うたことの意味、わかりませへんねん」
 隣の大吾に泣き顔で囁く。
 
(『なにわ人情謎解き帖 天満明星池』P.44より)

お駒は公事場に呼び出されて、奉行の石谷因幡守から、口寄せで死んだ紅葉を呼び出して、お取り調べに応じるように命じられます。
願人側の男の母親・お美津が抗議をする中、お駒は口寄せができるのか……。

第二話の「恵比寿幽霊」では、浪花医師見立番付で、東の大関に名を連ねる、評判が高い、佐伯道順という医師が登場します。その名医に殺しの疑いが……。

「しかし、おまえ不思議な娘やな。さっき、あんなに落ち込んどったのに、事件の話を聞いたら、なんや随分と元気になって……」
 大吾は別れ際、少しばかり、お駒をからかってみたくなった。
「へぇ、口寄せと大吾さんのお仕事、なんやら似てるような気がして……あっ、すんまへん。えらい失礼なこと言うて」
「かまへんがな。せやけど、梓巫女と奉行所の同心のどこが似てる?」
「やりようは違うけど、いろいろ調べて、死んだお人の代わりに言いたいことや、無念を探すお仕事でしょう。梓巫女も亡者の声を聞くのが仕事やさかい……でも」
 
(『なにわ人情謎解き帖 天満明星池』P.83より)

本書が面白いのは、捕物の主役を務める大吾とお駒のキャラクター設定がユニークでかつ魅力的なこと。盲目ながらも、天性の明るさで、話し相手の心を開いてしまうお駒。着眼力と推理力で難事件を解決し、人情味にも溢れていて、手下や町人に慕われる大吾。

また、幕末の大坂を舞台にしていて、当時の世相も随所に物語の中に取り込んでいます。

 大吾は顎に手をやり、どこまでも高い空に目をやる。なんとか力になってやりたいのは山々である。
「おまえの気持ちはわかるし、確かに引っかかるとこもある。もし殺しが絡んでるなら、捨ててもおけん。せやけど、間が悪いわ。おまえにもわかるやろ。今はこの調子や」
 ふたりの前を騒がしく行きかう人々、その口から飛びかう言葉の端々に、黒船、であな号、そんな言葉が幾度と交じる。
 
(『なにわ人情謎解き帖 天満明星池』P.263より)

たとえば、第五話「澪標盗人」では、嘉永七年(1854)九月にロシアの使節、プチャーチン提督率いる帆船ディアナ号が紀伊水道を北上し、天保山沖に碇を下ろした事件が描かれています。

ディアナ号は同年十一月に下田を訪れた際に、発生した安政東海地震による津波で大破し、沈没したのは知っていましたが、その前に大坂を訪れていたことは本書で初めて知りました。

幕末の大坂の情緒を楽しみながら、アリバイ崩しがあったり、トリックを見破ったりと、推理小説の面白さも堪能できる、捕物小説です。

2カ月連続の刊行で、シリーズ第2弾の『なにわ人情謎解き帖 烏検校(からすけんぎょう)』も発売されていて、大いに楽しみです。

◎書誌データ
『なにわ人情謎解き帖 天満明星池』
著者:加瀬政広
双葉社・双葉文庫
第1刷発行:2018年5月13日
ISBN978-4-575-66886-5
本体648円+税

カバーデザイン:大岡喜直(next door design)
カバーイラストレーション:山本祥子
333ページ

2015年6月、双葉社より単行本刊行

●目次
巫女町心中
恵比寿幽霊
天満明星池
鴻池の犬
澪標盗人
解説 縄田一男

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『なにわ人情謎解き帖 天満明星池』(加瀬政広・双葉文庫)
『なにわ人情謎解き帖 烏検校』(加瀬政広・双葉文庫)