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仕舞屋侍

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仕舞屋侍
仕舞屋侍

(しまいやざむらい)

辻堂魁

(つじどうかい)
[捕物]
★★★★☆☆

『風の市兵衛』シリーズで大ブレイクの辻堂魁さんの新シリーズ、おなじみの卯月みゆきさんの表紙の装画と相まって、風の市兵衛ファンにはうれしい作品の誕生。

主人公の九十九九十郎は、元御小人目付で、今は仕舞屋稼業を営む、初老の侍。御小人目付とは、御徒目付とともに公儀の御目付の配下で、御徒目付より禄の低い一代抱えの下士である。

「仕舞屋さん、でございましたね。お噂は聞いたことがございます。なんでも元お役人さまがおられ、その方がお役人のときの伝を頼って様々に画策し、もめ事やごたごたを起こして訴えられたり訴えられそうな方から、お金をとってもめ事やごたごたを公正な仲裁というより、表沙汰にせずもみ消すご商売だとか。よろしゅうございますねえ、いろいろなお役所に伝のある元お役人さまは、お気楽に稼げて……」
 
(『仕舞屋侍』P.40より)

仕舞屋の依頼人の母親が言ったことばだが、もちろん、そんなにお気楽に稼げる仕事ではない。もう一人の依頼人である女のセリフで、仕舞屋がどういう役割を果たすかがうかがい知れる。

「飲みこみの悪い女ですけれど、あんな夢を見たら、どんな馬鹿な女だって、気がつきます。半次郎さんは、わけがあって誰かにあんな目に遭わされ、無念で成仏できないでいるんだなって。無念をはらしてほしいから夢の中に出てくるんだなって。わけを調べ直して、半次郎さんをあんな目に遭わせた誰かにちゃんと罰を受けさせてやらないといけないんだなって、気づくに決まっていますよ」
 お照は、面のような顔つきを、また明障子の淡い光へ向けた。
「でもね、それに気づいても、わたしみたいな女に一体何ができますか。何もできやしません。そしたら、昔の知り合いから仕舞屋さんの評判を聞いたんです。仕舞屋さんに頼めば、人のできない事の代わりをお金で引き受けてやってくれるよって。お金さえ払えば、頼まれた事はたいてい引き受けてくれるはずだよって」
 
(『仕舞屋侍』P.69より)

何やら必殺仕掛人のような役回りだが、単なる痛快もので終わらないのが辻堂作品。強きを挫き弱きを助ける正義感の強い主人公・九十郎は、仕事に対して誠実なキャラクターであり、人情味に厚い、『風の市兵衛』の主人公唐木市兵衛を想起させる。

「先日、藤ゆで預かった三十両です。改めて、頼まれた仕事はお断りするゆへ、これはおかえしいたします」
 お照は徳利を膝の上に持ったまま、膝わきの布包みに物思わしげな目を落とした。
「恥をかいてしましました。未熟者です。いい歳をして、修行が足りぬのです」
九十郎は白髪まじりの総髪のほつれた髪を、耳の後ろへかき上げた。

(『仕舞屋侍』P.274より)

お金で仕舞い事を請け負いながら、お金に恋々としない。やっぱり、算盤侍に相通じるカッコよさがあり、作品の読み味の良さにつながっている。

 人は人の心の中で生きるのか、と九十郎は考えた。

(『仕舞屋侍』P.296より)

物語に彩りを与えているのが、婆やの代わりに九十郎の住まいで家事仕事を行うことになる、十二歳の少女・お七の存在。芯の強さと父親ゆずりの料理の腕が魅力的であり、その生い立ちの秘密がやがて明らかになっていきそうであり、次回作が待ち遠しい。

主な登場人物
九十九九十郎:元御小人目付で、今は仕舞屋稼業を営む
藤五郎:湯屋《藤ゆ》の主人
お七:九十郎の住まいで家事仕事を行う、十二歳の童女
橘左近:北町奉行所年番方与力
三屋半次郎:東叡山寛永寺専属の同心、山同心
お照:半次郎の妻
熊代洞山:寛永寺警備の同心頭、半次郎の上司
室生伸之助:表番町の旗本八百石・新番衆の室生家の当主
昌:伸之助の母
望月万蔵:室生家用人
お品:本銀町の老舗杵屋の娘で、室生家に女中として奉公する
俊慧:寛永寺の僧
萩野忠五郎:車坂町に住む浪人者
忠一:根岸の料理茶屋の主

物語●
元公儀御小人目付として隠密探索と剣の達人だった九十九九十郎は、ある事情で職を辞し、今は事件のもみ消しを行う「仕舞屋(しまいや)」稼業を営んでいた。

七年前に家の仕事に雇った婆さんが高齢を理由に暇を取り、家事仕事を任せられる婆さんを捜していた九十郎の家を、七と名乗る童女が賄いの職を求めて訪れてきた。父母を亡くし、伯母のお店に妹と厄介になっているという七は、断っても出て行かず、会津で料理人をしていた父に仕込まれた料理で九十郎を唸らせる……。

同じ日に、九十郎は、不忍池の畔で追剥ぎに襲われて、斬り殺された山同心の妻・お照に依頼されて、事件を調べ直すことに。お照は、奉行所の同心の調べでは流しの追剥ぎの仕業で処理されていたが、夫がたびたび夢に現れて無念だと繰り返し訴えている、夫の無念を晴らしてほしいと三十両を添えて、涙ながらに懇請した……。

目次■序 不忍池/其の一 番町黒楽の皿屋敷/其の二 山同心/其の三 消えた女/其の四 果たし状/終 品川女郎

カバーイラスト:卯月みゆき
カバーデザイン:中原達治
時代:寛政五年
場所:池の端通り、平永町、表番町、牛込御門、小柳町、感性寺門前の新茶屋町、根岸水鶏橋、ほか
(徳間書店・徳間文庫・620円+税・2014/02/15第1刷・297P)
入手日:2014/02/10
読破日:2014/02/11
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