修理さま 雪は

修理さま 雪は修理さま 雪は

(しゅりさま・ゆきは)

中村彰彦

(なかむらあきひこ)
[幕末]
★★★★☆

会津藩を描かせたら、並ぶものがない名手・中村彰彦さんの戊辰戦争をテーマにした連作短編集。泣ける一冊。戊辰戦争を描いた時代小説は白虎隊の話など、悲惨そうで食わず嫌いのところがあった。そんな苦手意識を変えてくれたのが、中村彰彦さんの時代小説。会津藩士たちの生き様の過酷さを感情的に描くのではなく、史料を丹念に掘り起こして美しい小説に紡ぎ出している。

『修理さま 雪は』は、戊辰戦争時の会津藩士とその家族を描いた7編を収録した短篇集。収録された作品について雑感を記す。

「修理さま 雪は」家老の嫡男で藩の将来を担う逸材と期待されていた、軍事奉行添役の神保修理は徳川慶喜の大坂逃亡の責めを負って自刃した。残された妻の雪(雪子)は、神保家の嫁として新政府軍の若松城下への突入を機に自決を決意するが…。戦争のもたらした異常心理と誇り高き会津人の生き方を垣間見ることができ、胸が締めつけられる。

「涙橋まで」会津娘子隊を率いた中野竹子の最期を描く短篇。竹子の聡明さ、清冽さ、凛々しさがなんとも美しい。

「雁の行方」会津藩家老西郷頼母は、自らの信念に基づき、藩主松平容保に諫言したり、同僚を容赦なく責たりする、剛腹さと矯激さをもっていた。異端の会津家老の数奇な生き様が興味深い。

「残す月影」女ながらに鉄砲を扱う会津藩砲術師範の娘・八重の戊辰戦争で出色の活躍ぶりに目をみはった。しかも、後年同志社を創設した新島襄と結婚したというエピソードを読み、へぇ~という感じ。

「飯盛山の盗賊」白虎隊の悲劇を利用しようとした人の醜さが際立つ一篇。

「開城の使者」鶴ヶ城開城の秘話をスリリングに描く。

「第二の白虎隊」明治三年に、会津から遠く離れた豊津藩小笠原家の藩校に留学した7人の元会津藩士の子弟。その中には会津藩家老で、戊辰戦争の首謀者としてただ一人斬に処された萱野権兵衛の子息・郡長正もいた…。史実をもとにしながらも、知られざるエピソードで興味深い。敗者の歴史がいかに伝えられにくいことか。

戊辰戦争と名づけられた内戦で、奥羽越列藩同盟側戦死者総数は4650数名だったという。その内訳は徳川家臣1505人、仙台藩1000余人、二本松藩336人、庄内藩322人、長岡藩310人…。会津藩の総戦死者数は3014人だという。いかに多くの会津藩の血が流されたことか。ある意味では異常ともいえる会津人の藩への思い、死生観、心理が作品を通じて浮き彫りになっていく。

作中で老人が銀煙管を吹かしていた若者を叱りつけるシーンが印象的。「負けた傷ましさをなぜ考えぬ。亡国の憤りを感じぬ輩ばかりだからこそ、金もないのに銀煙管をもてあそんだり、御変動などということばで事をごまかそうとしたりするのじゃ」。歴史を知らない、生きる意味がわからなくなっている若者に読んでもらいたい作品集である。

物語●「修理さま 雪は」官軍が滝沢峠まで迫ったその日、会津藩井上家では当主丘隅以下家族一同で出陣の儀式をした。その中には家老の嫡男・神保修理に嫁いで寡婦となった雪子もいた…。
「涙橋まで」会津藩の中野竹子は、妹の優子とともに、学問と薙刀術に天稟をあらわし、「女児の鑑」と称えられ、その美貌もあいまって「会津名物業平式部小町はだしの中野の娘」と歌われるようになった…。
「雁の彼方」藩士とその家族に入城を促す鐘が乱打される中、会津藩の高津八郎の妻おといは、近所に住む家老西郷頼母の妻千重子を誘いに行った…。
「残す月影」十五歳の少年伊東悌次郎は、藩の砲術指南山本権八の三女八重に、射撃の稽古をつけてもらいにやってきた…。
「飯盛山の盗賊」戸ノ口原の松林の中で、十六歳、十七歳の会津藩上士の子弟からなる白虎二番士中隊の三十七人が新政府軍と戦っていた…。
「開城の使者」会津藩士鈴木為輔は、城内の米、味噌、醤油、酒などを管理したり、藩主と家臣たちの間でおこなわれる盆暮の贈答を仲介する大賄役を長らくつとめていたが、籠城開始に先立ち実際に搬入された米の量と帳簿上の数字がまったく合わなくなり、その役儀を剥奪された…。
「第二白虎隊」明治三年一月、旧会津藩の上士の子弟七人が豊津藩校育徳館に留学してきた…。

目次■修理さま 雪は|涙橋まで|雁の彼方|残す月影|飯盛山の盗賊|開城の使者|第二白虎隊|文庫版あとがき

カバー画:蓬田やすひろ
カバーデザイン:中央公論新社デザイン室
解説:磯貝勝太郎

時代:「修理さま 雪は」慶応四年八月二十三日。「涙橋まで」文久三年。「雁の彼方」慶応四年八月二十三日。「残す月影」慶応四年三月中旬。「飯盛山の盗賊」慶応四年八月二十二日。「開城の使者」慶応四年七月。「第二白虎隊」明治三年一月。
場所:「修理さま 雪は」会津・甲賀町、小田山、長命寺。「涙橋まで」会津藩上屋敷、備中庭瀬藩、会津坂下、高久。「雁の彼方」会津・甲賀町、若松市栄町。「残す月影」会津・米代四ノ丁、鶴ヶ城本丸。「飯盛山の盗賊」戸ノ口原、飯森山。「開城の使者」本丸表御殿、面川村。「第二白虎隊」行事村、豊津。

(中公文庫・648円・05/09/25第1刷・266P)
購入日:05/09/30
読破日:05/10/09

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