『傑作! 名手たちが描いた 小説・鎌倉殿の世界』の解題を担当しました。

柳橋物語・むかしも今も

柳橋物語・むかしも今も柳橋物語・むかしも今も
(やなぎばしものがたり・むかしもいまも)
山本周五郎
(やまもとしゅうごろう)
[市井]
★★★★☆☆

NHKテレビ「時代劇ロマン」シリーズ第2弾として、『柳橋慕情』放送にともない、原作を入手し、読み始める。なお、ドラマの方は、これ以外にも「人情裏長屋」「ちゃん」などを原作として使っている。

これで7作目だが、初めて「周五郎ワールド」に触れた気がする。今まで読んだ作品もほとんど、水準以上、いや感動したものもあったが、今回ほど心の襞に触れたような、鳥肌が立つような感じは初めてである。下町もの、長屋ものにこそ、山本周五郎という作家の特質がいちばん現れるような感じがする。ようやく周五郎作品を読む下地(年齢的にも、精神的にも)ができたのも一因かもしれないが…。

「柳橋物語」と「むかしも今も」という、コインの裏表のような対照的な2つの中篇を収めている。「柳橋物語」は、TVドラマも始まり、注目されている。第1回目の放送を見たが、いかにもNHKらしく端正に作られていて好感が持てた。読みながら、若村麻由美さんの姿が何度も目に浮かんできた。とても難しい役どころなので、彼女の演技にしばらく注目したい。この作品の背景で、赤穂浪士の吉良邸討ち入りに触れられているが、物語のイメージとかけ離れていて、意外な感じがした。

実はあまり期待してなかっただけに逆に、「むかしも今も」の見事さに舌を巻いてしまった。この本の読み終えた後の快さが山本さんの作品を読む醍醐味なのだろう。ささくれ立った心が癒される。『さぶ』のさぶを彷彿させる、直吉の一途さ、貧しい中で支え合うやさしさと人情…。現代の日本人が喪失した美質がそこにある。今、ファンタジーを描こうと思ったら、その場所を時代小説に求めなくてはならないのだろうか。

物語●「柳橋物語」研ぎ師源六の孫娘・おせんは、上方へ行くという幼なじみの大工の庄吉から愛を打ち明けられた。おせんは、帰って来るまでお嫁にゆかないで待っていてくれるかという庄吉の言葉に、“待っているわ”と自分ではなにを云うのかわからずに答えていた…。「むかしも今も」直吉は、幼いころ両親に死なれ、九つまで叔父に育てられたが、叔母からのそのそしているといって折檻された。指物師紀六に奉公したが、一生懸命に働いてもそこでも兄弟子たちから、化物面だ、愚図だと、ひどい言葉をかけられた。こういう状態の彼を救ってくれたのが、おかみさんのお幸だった…。

目次■柳橋物語|むかしも今も|解説 奥野健男

カバー:岡田嘉夫
解説:奥野健男
時代:「柳橋物語」元禄十五年秋。「むかしも今も」明記されず
場所:「柳橋物語」平右衛門、茅町二丁目、福井町、浅草寺、阿部川町、大阪・道修町ほか。「むかしも今も」木挽町六丁目、汐止め堀、麻布飯倉、愛宕下、八丁堀、古川ほか。
(新潮文庫・476円・64/03/30第1刷・00/06/20第56刷・310P)
購入日:00/07/16
読破日:00/08/23

Amazon.co.jpで購入