たそがれ清兵衛

たそがれ清兵衛

(たそがれせいべえ)

藤沢周平

(ふじさわしゅうへい)
[武家]
★★★★☆ [再読]

遅れ馳せながら、ようやくという感じで、『たそがれ清兵衛』(山田洋次監督)のビデオを見た。十数年前に読んだ原作の記憶が曖昧で、読み返してみたくなった。

読み始めてみて、以前に読んだころの記憶がかなり薄れていて、初読のときのように楽しめた。映画は、「たそがれ清兵衛」のほかに、「祝い人助八」のエピソードも取り入れていることがわかった。この作品のしみじみとした味わいは歳を重ねるほど、出てくるのだろう。

「ひとは他人の美を見たがらず、むしろ好んでその醜を見たがるものだからでもあろう。…」
(「うらなり与右衛門」P49より)

それぞれの物語(一話読みきりの連作形式)の主人公たちは、うらなり、だんまり、ごますり、ど忘れ、不潔、泣き言ぐせ…と、弱点をもっている中年の下級藩士である。蔑称めいた渾名を持ちながらも、人間的には真っ当で、しかも剣の名手であり、肝心なときに真価を発揮するという設定が、会社で疲れた現代のサラリーマンには、共感のもてるヒーロー像となっている。

物語●「たそがれ清兵衛」勘定組の井口清兵衛は、無形流の名手ながら、長患いの妻を抱え、家事に力を注ぐために、たそがれ清兵衛と渾名されていた…。
「うらなり与右衛門」右筆勤めの三栗与右衛門は、無外流の遣い手で美人の妻をもちながら、色青白く細長い顔でアゴがしゃくれているために、うらなりと嘲られていた…。
「ごますり甚内」雲弘流の秘伝を授けられた川波甚内は、だれかれ構わず、人前で堂々と上役のへつらい機嫌取りをしているために、ごますり甚内と渾名されていた…。
「ど忘れ万六」かつて林崎夢想流の折り紙付きの居合の名手だったが、ど忘れが原因で普請組勤めから隠居した樋口万六は、嫁から相談事を打ち明けられた…。
「だんまり弥助」馬廻組に属する杉内弥助は、今枝流の剣士として高名だったが、非常に無口なために、藩中で、変わり者と見られていた…。
「かが泣き半平」普請組の鏑木半平は、心極流の極意を得ていたが、こらえ性がなく泣き言をよく言うので、かが泣きと呼ばれていた。その半平があるとき、大柄な若い武士に苛められている親子を助けた…。
「日和見与次郎」郡奉行下役を勤める藤江与次郎は、直心影流の遣い手ながら、藩の派閥抗争に巻き込まれた父を見て、徒党を組むことを嫌い、日和見と言われるようになっていた…。
「祝い人助八」御蔵役の伊部助八は、藩主の御蔵視察の際に、身なりの汚さ・悪臭を注意され、祝い人(ほいと=物乞い)助八と渾名されるようになった。彼は香取流の名手でもあったが…。

目次■たそがれ清兵衛|うらなり与右衛門|ごますり甚内|ど忘れ万六|だんまり弥助|かが泣き半平|日和見与次郎|祝い人助八|解説 縄田一男

カバー:村上豊
デザイン:新潮社装幀室
解説:縄田一男
時代:明示されず
場所:架空の場所。いずれも海坂藩ではない。
(新潮文庫・514円・91/09/25第1刷・03/11/20第52刷・327P)
購入日:03/12/14
読破日:03/12/29

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