葉隠物語

葉隠物語
葉隠物語
(はがくれものがたり)
安部龍太郎
(あべりゅうたろう)
[武家]
★★★★☆

『葉隠』は、佐賀鍋島藩藩主三代(直茂・勝茂・光茂)と家臣たちの言行録である。鍋島藩藩士山本常朝が武士としての心得(武士道)を説き、弟子の田代陣基が記述したものである。

『葉隠』というと、「朝毎に懈怠なく死しておくべし」とか「死ぬことと見つけたり」という文言が有名で、過激な死生観だけがクローズされることが多い。(といっても、私自身、原典を読んだわけではないので偉そうに言えないが…)

『葉隠』から題材を取った作品では、不世出の時代小説家・隆慶一郎さんの『死ぬことを見つけたり』という傑作がある。鍋島武士が葉隠精神を発揮して、縦横に暴れまわ痛快な物語。安部龍太郎さんは、病床の隆さんが「最後に会いたがった作家」という伝説を持っている。『葉隠物語』は「月刊武道」という武道専門雑誌に連載された小説でもある。

『葉隠物語』は、序章と終章、二十三話から構成され、最初に『葉隠』の一節がテキストとして引用され、その後に藩主と藩士たちの物語が綴られていく構成になっている。一話は短いが趣きがあり、葉隠精神が横溢されていて面白い。

話は年代順になっているので、藩祖から三代の鍋島藩の歴史がよくわかる。それぞれの藩主や曲者ぞろいの家臣たちが個性的に描かれている。鍋島武士の力を発揮する場であった、島原の乱も登場する。途中からは山本常朝が登場し、主人公役を務める形になり、その言行が生き生きと描かれ、さらに共感を持って読める。

さて、「死ぬことと見つけたり」は、死ぬことそのものではなく、日々死ぬために生きることである。日々死身になることで、怖いものも欲もなく、冷静に物事を見て、誰もが納得する処置を取れる、境地をいう。

命を懸けた覚悟ある生き様こそ、人の命が輝くことであり、本書が伝えたかったことである。『葉隠物語』はいつ読んでも示唆に富み、面白く読めるはずだが、未曾有の大災害に見舞われ、日本人として真価が問われる今、ぜひ読んでほしい一冊である。

主な登場人物◆
山本常朝(神右衛門):鍋島光茂に仕えた藩士
田代陣基:元佐賀藩祐筆
鍋島直茂:龍造寺隆信に仕え柳川城を守る。鍋島藩藩祖となる
中野清明:直茂の側近で、常朝の祖父
斎藤佐渡:直茂の家臣で鉄砲名人
斎藤用之助:佐渡の息子
藤島生益:直茂の近習
泰子:直茂の正室
龍造寺信周:肥前など五カ国の太守・龍造寺隆信の弟
龍造寺政家:隆信の嫡男
龍造寺高房:政家の子
鍋島勝茂:直茂の子
中野杢之助:勝茂の側近
鍋島主水茂里:泰子の甥で、直茂の養子
七左衛門(茂賢):茂里の弟
中島源之介:鍋島茂治の家臣
玉姫:神代鍋島家の家老・鍋島茂治の娘
成富兵庫:鍋島藩士
多久長門守安順:隆信の甥で筆頭家老
多久美作守茂辰:安順の養子
小倉:江戸屋敷の侍女頭
お菊:勝茂の正室
鍋島忠直:勝茂の嫡男
鍋島甲斐守直澄:忠直の弟
於利:忠直の正室
翁助(後の光茂):忠直の嫡男
鍋島紀伊守元茂:直茂の孫
石井弥七左衛門:勝茂の側役
山本神右衛門重澄:鉄砲頭。常朝の父
左衛門(後の綱茂):光茂の嫡男
中野数馬:左衛門の御側年寄役
鳥山新八郎:幕臣で長崎奉行所の検使
松子:常朝の妻
沢部平左衛門:常朝の従兄弟
山本五郎左衛門:大目付。常朝の甥
中野又兵衛:平左衛門の父
中野将監正包:年寄役
鍋島加賀守直能:紀伊守元茂の子で小城藩主
黒川小右衛門:佐賀城下の芦原に住む手明槍(無役の藩士)
千代:小右衛門の妻
徳水三左衛門:小右衛門の隣家の男
三条西実教:古今伝授の秘伝を受け継いでいる
お婦里:光茂の愛妾
鍋島和泉守直朝:鹿島藩主で光茂の異父弟
牛島源蔵:京都詰めの藩士
河村権兵衛:三条西家の家司

鍋島家
藩祖直茂→初代勝茂→二代光茂→三代綱茂→四代吉茂

物語●田代陣基は理不尽な理由で禄を奪われ、牢人を命じられ、武士の意地を示すために死ぬことを考えていた。死ぬ前に、先々代藩主の鍋島光茂に仕えて、曲者と評される山本神右衛門(常朝)を訪れた。常朝から腹を切ることでは武士の一分を立てたことにはならないと言われる。
「まず、切腹を命じられた友の介錯をせよ。その位牌を抱いて、仇と目する重役の屋敷に斬り込むが良い。そうして斬り死にしてこそ、こたびの処分の非を鳴らすことができるではないか」
陣基は鍋島武士の生き方を説かれて大きな衝撃を受ける。そして、武士道とは何かを知ることを学ぶために、常朝の弟子となる…。

目次■序章 出会い/第一話 沖田畷/第二話 仇敵島津/第三話 恥/第四話 父と子/第五話 柳川の槍/第六話 おうらみ状/第七話 昼強盗/第八話 駆け落ち/第九話 死ぬことと見つけたり/第十話 去年うせし人/第十一話 島原の乱―前編/第十二話 島原の乱―後編/第十三話 勝茂閉門/第十四話 曲者たち/第十五話 小姓不携/第十六話 イギリス船長崎入港/第十七話 介錯人権之丞/第十八話 三家格式/第十九話 一夜の蚊帳/第二十話 忍ぶ恋/第二十一話 父子相剋/第二十二話 骨髄に徹す/第二十三話 古今伝授/終章 葉隠誕生/あとがき

カバー写真:「大蔵錦」鈴木時代裂研究所復原
装幀:安彦勝博
時代:天正十二年(1584)三月初め、宝永七年(1710)三月五日
場所:柳川城、村中城(佐賀城)、勝尾城、伏見、大坂城、島原、天竜川、江戸・麻布上屋敷、肥前・黒土原ほか
(H&I・1600円・2011/03/14・415P)
購入日:2011/03/10
読破日:2011/03/16

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