新しい手習いの先生には人に言えない秘密がある

手習い所純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『手習い所純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』が双葉文庫より刊行されました。
「お裁き将軍 天下吟味」シリーズや「定中役捕物帖」シリーズなど、時代物ミステリーで活躍する著者の新シリーズです。

本所石原町の「刀林寺」住職・諾庵を頼り、江戸に出てきた三好小次郎。寺に寝泊まりする代わりに、諾庵に請われるまま手習い所「長楽堂」の先生になった小次郎は、ちょっとしたことにすぐ感動して涙を見せることから、子どもたちに「泣き虫先生」と呼ばれるようになる。
そんなある日、長楽堂の教え子が家に帰る途中、姿を消してしまう。かどわかしに遭ったのか? さっそく小次郎は探索を始める……。


主人公の三好小次郎は、正義感で感動するとすぐに涙を流しますが、実は一刀流の達人でもあります。諾庵を頼って江戸に出てきて、諾庵が師匠をしていた手習い所の師匠となります。

さて、この小次郎は、人に言えない秘密をもって江戸にやってきました。
事件あり、謎ありで、ユーモラスなやり取りも楽しい人情時代小説の誕生です。

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『手習い所純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』


「2017年5月の新刊 下」をアップ

三人娘 手蹟指南所「薫風堂」2017年5月21日から5月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年5月の新刊 下」を掲載しました。

今回注目するのは、角川文庫です。

野口卓(のぐちたく)さんの『三人娘 手蹟指南所「薫風堂」』は、手蹟指南所の若師匠・雁野直春を主人公にした、青春時代小説です。

初午の時期を迎え、「薫風堂」に新しい手習子がやってきた。四カ所の寺子屋に断られたほどの悪童を、師匠の雁野直春は、引き受ける決心をする。
一方、端午の節句が迫ったある日、二人の武家娘が直春を訪ねてきた。ノブと菜実は、幼馴染みの美雪が想いを寄せる直春を、ひと目見ようとやってきたのだ。だが菜実は、誠実な直春に只ならぬ関心を寄せるのだった……。


代表作『軍鶏侍』シリーズに相通じる、爽やかな読み味を楽しみたいと思います。

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『三人娘 手蹟指南所「薫風堂」』
『手蹟指南所「薫風堂」』(シリーズ第1作)

→2017年5月の新刊 下


『文蔵 2017.6』の特集は、小説でよみがえる「近代日本」

『文蔵 2017.6』『文蔵 2017.6』(PHP研究所・PHP文芸文庫)の特集は、電車、政治、経済、技術、文化 小説でよみがえる「近代日本」 です。

文芸評論家の末國善己さんが、《政治家・官僚》国家の危機を救った人物たち、《実業家》一代で財を築いた男の生きざま、《技術・文化》国家的イノベーションへの道のり、《女性》時代を駆け抜けたパワフルなヒロインたち、と4つのテーマで、「すごい日本人」がわかる名作12編をガイドします。

明治時代から太平洋戦争まで、日本の近代化を進めた人物たちの生涯を描いた作品を紹介しています。

戦争屋と世間に罵られながらも大倉財閥を築いた大倉喜八郎の生涯を描く『怪物商人』や、日本の鉄道の父と呼ばれている井上勝の評伝『クロカネの道』の著者・江上剛さんの特別寄稿も掲載しています。

時代小説を通して江戸の時間に身をおくことが多いですが、ときにはその後の世界をのぞいてみることも悪くないなあと思いました。

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『文蔵 2017.6』(PHP文芸文庫)
『怪物商人』(PHP文芸文庫)
『クロカネの道』(PHP研究所)

⇒『文蔵』ホームページ

羽衣伝説の三保の松原と次郎長ゆかりの地を訪ねて

背負い富士静岡の旅3日目は、東海道線を島田から帰路。途中で清水に向かいました。
江戸時代、清水は東海道の18番目の宿場、江尻宿と呼ばれていました。

清水では、世界文化遺産の名勝「三保の松原」を観光しました。
当日は、晴れていましたが黄砂が飛来していて、視界が悪くて富士山の姿を見ることはできませんでした。

三保の松原
さて、三保の松原というと、羽衣伝説の舞台として知られています。浜には天女が舞い降りて羽衣をかけたとされる「羽衣の松」があります。

この羽衣伝説を取り入れた時代ファンタジーに、浮穴みみさんの『天衣無縫』があります。

三保の松原に舞い降りた天女の妙耶は、羽衣を盗賊に盗まれてしまう。
その賊に親と許嫁を殺され、敵討ちを誓った菓子職人の太一と共に、妙耶は盗賊の行方を追う。
そんな日々の中で妙耶は市井に交わり、身内ゆえの情や、よすがなき女の哀しみ、職人がもつ矜持など、人間の心のありように触れてゆく。次第に妙耶の胸にも、ある想いが兆してきて……。


妙耶は羽衣がないと天界には戻れずに、敵討ちを誓う太一と、共通の敵である賊の行方を追って行動をともにします。江戸を舞台に、謎解きとお菓子作りの描写も楽しく、欲張りなファンタジー時代小説です。

三保の松原を後にして、清水の市街地にある、清水次郎長さんゆかりの場所を巡りました。

「末廣」は、晩年の次郎長が営んだ船宿を復元した清水港船宿記念館です。
清水港振興に尽力した次郎長の晩年の姿を表現し、博徒から社会事業家へと生き方を変えた明治の次郎長を知ることができました。
子供好きの次郎長が饅頭屋で売られていた饅頭を指でわざと潰して、子供たちに配ったという、名物の「指まんじゅう」で抹茶を一服しました。

静岡県静岡市清水区港町1-2-14


巴川に架かる港橋
次郎長商店街にある次郎長の生家は耐震工事中で見られませんでしたが、代わりに菩提寺の梅蔭禅寺を訪れました。
梅蔭禅寺には、清水次郎長と女房のお蝶(初代、二代目、三代目)、そして大政、小政といった子分衆のお墓があります。
梅蔭禅寺にある、次郎長像
静岡県静岡市清水区南岡町3-8


清水次郎長を描いた時代小説では、山本一力さんの『背負い富士』がおすすめです。
船宿『末廣』も作品に登場します。

二代目のお蝶の鮮烈な生き様を描く、諸田玲子さんの『からくり乱れ蝶』。二代目のお蝶は、次郎長の歴史の中で触れられることが少ない人物なので、ぜひ押さえておきたい作品です。

3回連続の静岡の旅のレポートも今回が最後。
お読みいただきましてありがとうございます。
また、機会がありましたら、記事を書きます。

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『天衣無縫』(浮穴みみ・双葉文庫)
『背負い富士』(山本一力・文春文庫)
『からくり乱れ蝶』Kindle版(諸田玲子・講談社文庫)

清水港船宿記念館「末廣」


「越すに越されぬ大井川」の島田を訪ねて

はやぶさ新八御用旅(一) 東海道五十三次GWの静岡の旅2日目は、東海道線の掛川駅から3つ目の島田駅へ。
東海道五十三次では、日坂、金谷と江戸に向けて戻り、23番目の宿場、島田宿ということになります。

島田市の観光といえば、大井川鉄道のSL(6月から10月の期間限定で「きかんしゃトーマス号」も運行)と蓬莱橋が有名です。

島田市博物館
今回はどちらもパスして、島田市博物館と隣接する大井川川越遺跡(おおいがわかわごしいせき)を見学。
「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と謳われた、東海道の難所の歴史を少しだけ勉強してきました。

大井川川越遺跡は、「川越し」の料金所(川会所)や、人足の待合所(番宿)などの風景を再現した史跡です。

大井川を渡るには、川札(人足一人を雇うために札一枚が必要)を川会所で買い、川越人足に手渡してから、肩車や連台に乗り川を越しました。
この川札の値段は、毎朝、水の深さによって定めました。水深は「股通」とか「乳通」と呼び、「股通」の場合は川札一枚が四十八文でありました。「脇通」四尺五寸(約136センチ)を超すと川留めになりました。

川札の値段
(静岡県島田市観光協会HPより)


平岩弓枝さんの『はやぶさ新八御用旅(一) 東海道五十三次』でも、大井川川越の場面が描かれています。

 新八郎達が大井川へたどりついた時、川越えの業務を扱っている川会所の前に出ている木札には、只今、人足代七十文とある。
 普通、男は人足の肩車、女は連台と決まっているので、新八郎がその賃金を払おうとすると駕籠を下りてついて来た稀世が、
「どうぞ、御一緒にお願い申します。一人では怖くて……」
 という。


16人で担ぐ「大高欄連台」。奥に立て掛けてあるのが「平連台」
遺跡には連台の実物も展示されていて、増水時に連台に乗るのは確かに怖い感じがしました。

なお、島田市博物館では、「大井川、島田宿、川越し」を紹介する常設展示のほか、毎年毎年9月第3日曜に開催される「島田髷まつり」に関する展示もあります。

江戸時代の女性の代表的な髪型で、多くのバリエーションがある「島田髷」は、島田がルーツといわれています。島田出身とも伝えられる遊女、虎御前が考案したともいわれています。
虎御前は、曾我兄弟の仇討で有名な兄の十郎祐成の恋人として知られています。

思い思いの島田髷を結い上げた、揃いの浴衣姿の数十名からの若い女性たちが、手踊りをしながら市内を練り歩く、このおまつりは何とも華やかでフォトジェニックです。祭の時期にも訪れたくなりました。

静岡県島田市河原1-5-50


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『はやぶさ新八御用旅(一) 東海道五十三次』(平岩弓枝・講談社文庫)
『曾我兄弟の密命―天皇の刺客』(高橋直樹・文春文庫)

静岡県島田市観光協会
島田市博物館
島田髷まつり 公式ブログ