「2017年3月の新刊 上」をアップ

春秋の檻 獄医立花登手控え(一)2017年3月1日から3月10日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年3月の新刊 上」を掲載しました。

藤沢周平さんの傑作時代小説、『春秋の檻 獄医立花登手控え(一)』が文春文庫から刊行されます。

江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。居候先の叔父の家で口うるさい叔母と驕慢な娘にこき使われている登は、島送りの船を待つ囚人からの頼みに耳を貸したことから、思わぬ危機に陥った……。
起倒流柔術の妙技とあざやかな推理で、獄舎に持ちこまれるさまざまな事件を解く。著者の代表的時代連作集。


初めて読んだ藤沢さんの作品で、講談社文庫版(旧版のほう)で読みました。青年医師立花登の成長を描いた時代小説の傑作です。「獄医立花登手控え」シリーズ4編を一気読みしたことを思い出します。

蓬田やすひろさんの装画も素敵で、この機に読み返してみたくなりました。

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『春秋の檻 獄医立花登手控え(一)』(文春文庫版)
『新装版 春秋の檻 獄医立花登手控え(一)』(講談社文庫)

→2017年3月の新刊 上


美人女将お園の料理が人々の心を癒す、江戸人情料理帖。

縄のれん福寿 細腕お園美味草紙有馬美季子(ありまみきこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』(祥伝社文庫)を紹介します。

薄切りにして煮た蛸を、炊き上がる直前の飯に混ぜ込んで、汁を掛ける。それに刻んだ大葉を散らせば、ほんのり桜色に染まったご飯の出来上がり。
縄のれん〈福寿(ふくじゅ)〉を営む美人女将のお園は、優しさ溢れる料理で訪れる人々の心を癒す……。


時代は文政五年(1822)、日本橋小舟町の通称“晴れやか通り”にある、小料理屋〈縄のれん福寿〉。福寿は、女将のお園が女一人で切り盛りをしていて、常連客たちで賑わうお店です。

お園は二十歳の時に嫁に行ったが、三年も経たずに亭主だった料理人の清次が失踪するという過去を持っています。
理由がわからない清次の失踪で、お園はやり場のない思いから自分を責める日々を送り、心労と厳しい寒さがたたり、ある日、遂にからだを壊して道端で倒れてしまいます。
このまま死んでしまってもいいとさえ思ったお園を、通りすがりの見知らぬ老婆が助け、からだを優しく撫でて温め、夜鳴き蕎麦を御馳走してくれます。

 老婆は名前を告げずに去っていったが、温かな手は忘れたことがない。
 そして、老婆に御馳走になった一杯の蕎麦が、お園を変え、力をくれた。
――食べ物は、ただお腹を満たすだけのものではない。心に力を与えることだって出来るんだ。私は、あの蕎麦に力をもらった。
(『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』P.27 より)


失踪から一年が経った頃にお園は日本橋へ来て、仕舞屋を借り受けて店〈福寿〉を始めました。〈福寿〉を開いて二年が経った頃、店の前で倒れた若い娘・お里を助けるところから物語は始まります。

そして、今日も福寿には、悩みを抱えた者や生きることに苦しさを覚えた者、癒しを求める者が集います。
お園の料理は奇をてらったような独創的なものではありませんが、ひと手間かけて工夫を凝らし、愛情を込めて作られています。その想いは客たちの舌と胃袋を通して、心にすっとしみわたっています。料理の描写ばかりか人情描写も楽しみな江戸料理帖です。

2016年11月に刊行した本書が、著者の有馬さんの時代小説のデビュー作。2作目の『さくら餅 縄のれん福寿』もこの2月に刊行されたばかりで、今、気になる時代小説シリーズの一つです。

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『縄のれん福寿 細腕お園美味草紙』
『さくら餅 縄のれん福寿』


「2017年2月の新刊 下」をアップ

本所おけら長屋(八)2017年2月21日から2月28日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2017年2月の新刊 下」を掲載しました。

畠山健二さんの笑えて泣ける!大人気の文庫書き下ろし時代小説シリーズの新刊、『本所おけら長屋(八)』がPHP文芸文庫から刊行されます。

江戸は本所亀沢町にある「おけら長屋」では、今日も騒動が巻き起こる。
長屋の浪人・島田鉄斎に剣術の手ほどきを求めてきた娘の目的とは。
天下の大関と対戦することになった気弱な相撲取りを勝たせるべく、万造と松吉は策を巡らすが……。
家を出た一人娘と、頑固な父親を再会させるために奔走する万造とお満だったが、二人の心にも微妙な変化が……など、五篇を収録。


古典(江戸)落語のように、長屋を舞台に、ひと癖ある店子たちが繰り広げる騒動の連続に、笑えて泣けて、ジーンときます。傑作人情時代小説シリーズの待望の第8弾、今回もページを繰るのが楽しみでなりません。

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『本所おけら長屋(八)』
『本所おけら長屋』

→2017年2月の新刊 下


『文蔵 2017.3』のブックガイドは、大人も楽しめる異世界小説

『文蔵 2017.3』『文蔵 2017.3』(PHP研究所・PHP文芸文庫)のブックガイドは、ある日突然、未知の冒険へ!? 大人も楽しめる「異世界小説」 です。

巻頭のブックガイドでは、文芸評論家の細谷正充さんが、現代人が異世界に行って冒険をする、異世界ファンタジー小説の中で、すでに評価の定まった名作から最新作まで、15作品を紹介。
蝉川夏哉さんの『異世界居酒屋「のぶ」』もおすすめ本として登場します。
現代と異なる世界が舞台ですが、残念ながら時代小説ではありません。

時代小説ファンとしては、あさのあつこさんの「おいち不思議がたり 飛翔篇」と宮本昌孝さんの「天離り果つる国(あまさかりはつるくに)」、山本一力さんの「献残屋佐吉御用帖」といった連載小説が楽しめます。

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『文蔵 2017.3』(PHP文芸文庫)
『おいち不思議がたり』(あさのあつこ、PHP文芸文庫)
『まいない節 献残屋佐吉御用帖』(山本一力、PHP文芸文庫)

⇒『文蔵』ホームページ

将軍就任要請を辞退した、家光の孫が悪を斬る!

将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』がコスミック・時代文庫から刊行されました。

次期将軍の第一候補者でありながら、権利をあっさりと放棄した、上州館林藩主松平清武。清武は、三代将軍家光の孫にして六代家宣の実弟という血筋で、直系男子であった。
が、七代将軍家継が危篤に陥った折、年齢や藩政の実績を理由に将軍就任を拒み続ける。これには、清武の真意があった。城に居ては庶民の目線を失う。長屋に暮らしながら悪人退治をしたかったのである。
紀州徳川家から迎えた八代将軍吉宗を市中から支え、享保の改革の片棒を担いだ清武……。


これまで多くの時代小説を読んできたが、家光の孫、家宣の実弟・松平清武を主人公にした作品は読んだことがありませんでした。有資格者に思われるのに、なぜ、将軍に就かなかったのか、疑問が湧いてきます。

「わたしが再興させた折の館林藩のことはよく存じておられるはず」
 天英院が少し目をそらした。
 清武も畳に目を落とすと、再び顔を上げた。
「四十四で松平の姓を初めて賜りました。それまでは、姉上もよくご存じのとおり、甲府藩家臣の越智喜清に育てられ十八の時から越智の家を継いでおりました……」
(『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』P.56より)


七代家継が危篤に陥った際に、家宣の正室天英院は八代将軍の候補として清武を推したといいます。清武が家継の叔父であり、血統的に最も近かったのが理由です。

しかしながら、この時、清武は五十四歳という年齢と、家臣の越智家の家督を継ぎ、四十四歳の時に松平姓を許され、館林藩主となった経歴が将軍にふさわしくないということで拒んだといわれています。

本書では、将軍職への野心よりも庶民の目線を大切にする時代ヒーローとして描かれています。どのような活躍ぶりを見せるか、大いに食指が動く物語の始まりです。

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『将軍を蹴った男 松平清武江戸奮闘記』