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歴史小説の懐

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歴史小説の懐

(れきししょうせつのふところ)

山室恭子

(やまむろきょうこ)
[読み物]

著者の山室さんからゲストブックに書き込みをいただき、早速、行き付けの本屋さんに走った。

このたび、歴史・時代小説にかかわる拙著をまとめましたので、ぜひ御覧いただきたく、ご案内させていただきます。
 『御宿かわせみ』のおるいさんは、なぜ歳をとらないのか? 『剣客商売』では、なぜ雨ばっかり降るのか? など、私なりに歴史・時代小説の豊かな懐に遊んでみました。

「時代小説SHOW」ゲストブックより(管理者注:現在、ゲストブックは廃止)

実は、俎上にあがった時代小説は名作中の名作ばかりなのだが、未読のもの(23篇中10篇)が多く、ちゃんと楽しめるかどうか不安だった。また、最近、積ん読状態の本が多くなっている状態で、2,500円の出費は慎重にならざるをえないところだった。

読み始めてみると、そんな杞憂は吹き飛んでしまった。未読の本に関する評論も大いに楽しめた。評論と書いたが、難解な用語を駆使した小難しいものでも、思い入れたっぷりの共感しにくいものでもなく、作者特有の軽快な文体で、ニヤリとしたり、ウンウンとうなずいたりできるとっつきやすい時代小説(作者は歴史小説ということばを使っているが)作品論だ。

「深く書評の世界にのめりこんでしまった私であるが、それでもやはり本業の性が尾を引いてか、まず何を措いても、作品世界の年表づくりをしてしまう」(p.12)という、山室さんの視点は、まず、暦に向く。七十年に及ぶ歳月をカバーした『富士に立つ影』、時の凝縮が奔放な『柳生武芸帳』、全二十巻中の五巻目以降、慶応三年で物語の時間が止まってしまった『大菩薩峠』、暦をもとに、それぞれの作品の懐(=核心)をさぐり、われわれの前に明らかにしてくれる。『御宿かわせみ』では、雑誌連載に合わせて季節を経過して行くのに、いつまでも若々しいおるいさんの秘密に迫っている。しかも、かわせみの客室の謎を、その秘密を解く鍵にしているのは、見事。「御宿かわせみの建築学」の章を読んで、巻が進み、季節が巡るごとに単純に年を加えて、時代小説年表を作ってきたので、ドキっとして、冷や汗がでてきた。

「おや。いつもの癖で、“暦”をつくっていて、ちょっとおもしろいことに気がついた」(p.222)

山室さんの眼は、作品の描かれている季節にも向いている。百三十話中六十一話が春の話という、『眠狂四郎』シリーズ。シリーズが進むごとに、冬の話から夏の話の割合が多くなり、温暖化してゆく『用心棒日月抄』シリーズ。単に作品の暦や季節の傾向や特徴を挙げるだけでなく、そこから投影される主人公の心情、作者の執筆の秘密、効果などを、新鮮に解き明かしてもいる。

なるほど、こういう読み方もあるのか。うーん、いままで作品の上っ面しか読んで来なかった身としては、眼からウロコが落ちるような評論である。今まで、敬遠していた名作も、この本をきっかけに読んでみたくなった。読了後、またこの評論を読むことで楽しめて、2度おいしいっていうところか。

読みどころ●なぜ、『大菩薩峠』は未完に終ったのか? 鞍馬天狗の正体は? 『御宿かわせみ』の客室の謎とは? 暦、季節、天候、顔――歴史学者ならではの、緻密な作品読解と、そこから導き出される大胆な仮説で、時代小説の名作23篇の〈懐(ふところ)〉を探り、読み解く一編。颯爽と登場しながら、後半になると、登場回数が減り、影が薄くなった『剣客商売』における三冬の謎なども気になるところ。

目次■大菩薩峠の七不思議(其ノ壱 永遠の秋/其ノ弐 面の無い男/其ノ参 漂う臀部/其ノ四 混淆文体/其ノ五 変身小坊主/其ノ六 白い名前/其ノ七 宿命の未完)|時代小説二十一面相(半七捕物帳/富士に立つ影/鞍馬天狗/宮本武蔵/顎十郎捕物帳/戦艦大和ノ最期/新・平家物語/平将門/樅の木は残った/眠狂四郎無頼控/柳生武芸帳/甲賀忍法帖/竜馬がゆく/国盗り物語/用心棒日月抄/鬼平犯科帳/剣客商売/真田太平記/幻燈辻馬車/日出処の天子/影武者徳川家康)|御宿かわせみの建築学|作品一覧/あとがき

挿画:森英二郎
ブックデザイン:日下潤一
(朝日新聞社・2,500円・00/07/10第1刷・418P)
購入日:00/07/29
読破日:00/08/10

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