罪なくして斬らる―小栗上野介―

罪なくして斬らる―小栗上野介―
罪なくして斬らる―小栗上野介―
(つみなくしてきらる・おぐりこうずけのすけ)
大島昌宏
(おおしままさひろ)
[幕末]
★★★★☆☆

単行本で入手したとき、『そろばん武士道』読了後、NHK正月時代劇「またも辞めたか亭主殿~幕末の名奉行・小栗上野介~」(2003年1月3日放映)を観た後と、何回もチャンスがありながら、読み逃していた作品。中山義秀文学賞受賞作(第三回)でもある。

主人公の小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)と聞くと、赤城山麓の幕府軍用金埋蔵金伝説や朝廷への反逆罪として斬首された幕臣という、官軍にとって敵役というイメージが強い。しかし、歴史がいつの時代も勝者を称える記録とすると、敗者にもスポットを当てることができるのが時代小説の真骨頂というべきところ。地元の人をはじめとした先人たちの勇気ある行動と、作者の丹念な資料渉猟と筆力により、小栗忠順の再評価がなされ、彼の事績が見直される昨今の状況は望ましいことだ。

小栗忠順が、横須賀造船所の開設に尽力し、海軍の町、横須賀の生みの親だと知り、「へぇー」という感じだ。その横須賀造船所(当時は製鉄所と呼んでいた)をめぐる、勝安房守(海舟)と徳川慶喜らとの関係を通して、幕末がビビットに描かれていて面白い。

小栗家は、譜代旗本のなかでも最古参、家康の父、松平広忠以来の安祥譜代(あんじょうふだい)の家柄であることが、忠順の生き方に大きな影響を与えたように思われる。意に沿わぬことがあると、上司にであれ遠慮なく自分の意見を主張し、容れられないと未練気もなく辞職したり免職になったりすることを繰り返してきた。その根底には、徳川家のためを思って、問題解決のための抜本的正論を述べるという直言癖によることが多い。その出処進退の鮮やかさと視野の広さからくる果断な行動力に大きな魅力を感じる。

物語●文久元年、対馬にロシア軍艦ポサドニク号が現れ、ビリレフ中佐に率いられたロシア兵たちが上陸し、長期滞在の構えをみせた。上陸した兵士たちは村を襲って農作物を奪い、牛を殺して艦へ運び込む。制止しようとした郷士を艦内に拉致し、関所の番人を射殺するなど、狼藉を働いた。幕府は長崎奉行所へロシア艦退去の交渉を命じる一方、外国奉行小栗忠順(おぐりただまさ)らを対馬に派遣した。忠順は、前年一月、日米修好通商条約批准のため、新見豊前守を正使とする遣米使節団に監察として同行し、九月に帰国したばかりで、十一月に外国奉行に任ぜられた、幕府きっての海外通の一人だった…。

目次■序章/第一章 露寇/第二章 又一どの/第三章 歩兵奉行/第四章 三度目の勘定奉行/第五章 建設の地は横須賀/第六章 ヴェルニー来たる/第七章 征長再び/第八章 建設すすむ/第九章 慶喜、将軍に/第十章 フランス人たち/第十一章 大政奉還/第十二章 閑適の日々/第十三章 烏川畔に散る/終章 海戦勝利/あとがき/文庫版あとがき/解説 清原康正

カバー装幀・装画:倉橋三郎
解説:清原康正
時代:文久元年(1861)二月
場所:対馬、駿河台、京、横浜、横須賀、マルセイユ、ツーロン、江戸城、鎌倉、江ノ島、大坂、上州・権田村ほか
(学陽書房人物文庫・700円・98/09/21第1刷・414P)
購入日:03/10/25
読破日:03/11/15

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