お鳥見女房

お鳥見女房お鳥見女房

(おとりみにょうぼう)

諸田玲子

(もろたれいこ)
[武家]
★★★★☆☆

諸田さんの人気シリーズの第一弾が待望の文庫化。爽やかで心温まる人情譚。

格子縞の小袖に柿色の昼夜帯をしめ、髪を地味な島田髷に結っている。小柄で華奢なのにふくよかな印象があるのは、丸みを帯びた体つきのせいだ。丸顔に明るい目許、ふっくらした唇、珠世はよく笑う。笑うと両頬にくっきりとえくぼが刻まれる。そのせいで歳より若く見えるが二十三を頭に四人の子持ちである。(p.10)

主人公、お鳥見役の女房、珠世が圧倒的な存在感ですぐに物語の世界に引き込まれた。珠世(たまよ)は、二十三を頭に四人の子どもをもつ主婦だが、その存在感は圧巻。夫と三人の子ども(長女は嫁に行っている)、隠居している実父の六人暮らしの家政を取り仕切っている。裕福ではない御家人の矢島家に、いきなり七人の居候が加わることから起こる悲喜劇と人情話。しかも居候のうち、一組は敵同士! スラップスティックになりがちな設定に、御鳥見役の隠された裏任務がかかわり、さらに幽霊話もあったりして、大いに楽しめる傑作エンターテインメント小説だ。鷹狩りについても、研究者に取材したり、資料を調べた上で描写されていて、物語が隅々まで堪能できる。

物語●江戸城の西北、雑司ケ谷にある御鷹部屋御用屋敷に、御鳥見役矢島家が住んでいた。「御鳥見役」とは、鷹の餌になる鳥の棲息状況を調べる役職で、葛西、岩淵、戸田、中野、目黒、品川の六カ所にある将軍家の御鷹場の巡検お、鷹狩のための下準備が主な任務だった。

矢島家は代々御鳥見役を務めていて、八十俵五人扶持に、十八両の伝馬金をいただく身分だった。当主は伴之助で、嫡男で二十歳の久太郎も見習い役として出仕して、十人扶持に伝馬金十八両をいただいていた。伴之助の女房の珠世が家政を仕切り、珠世の父の久右衛門も今は隠居の身だが、現役時代は御鳥見役を務めた。

久太郎の弟で、十九歳の久之助は馬庭念流剣術栗橋道場の高弟の一人、妹の君江は十六歳で少女っぽさがぬけきっていない。珠世の長女で二十三歳になる幸江は、器量を見初められ、百三十石の旗本家に嫁いでいた。

近所にある鬼子母神の御会式を明日に控え、長女の幸江が五歳になる息子・新太郎を連れて里帰りしていた。その矢島家にうらぶれた身なりの浪人者がやってきた……。

目次■第一話 千客万来/第二話 石榴の絵馬/第三話 恋猫奔る/第四話 雨小僧/第五話 幽霊坂の女/第六話 忍びよる影/第七話 大鷹狩/珠世さん、親友になりたいんです。向田和子

カバー装画:深井国
デザイン:新潮社装幀室
解説:向田和子

時代:天保十年(1839)十月
場所:雑司ケ谷御鷹部屋御用屋敷、鬼子母神、関口駒井町、幽霊坂、護国寺、高田町、弦巻川、渋谷村松前藩下屋敷、駒場野ほか

(新潮文庫・514円・05/08/01第1刷・356P)
購入日:05/08/05
読破日:05/08/06

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