(おおえどまちものがたり)
(このじだいしょうせつがすごいへんしゅうぶへん)
[アンソロジー]
★★★★☆
♪時代小説ランキング&ブックガイド本「この時代小説がすごい!」編集部が編集した、文庫書き下ろし時代小説アンソロジー、『大江戸「町」物語』の第四弾。
今回は、『この時代小説がすごい!2014年版』で第1位に選ばれた「奥右筆秘帳」の上田秀人さんのほか、「風の市兵衛」の辻堂魁さん、「小料理屋のどか屋 人情帖」の倉阪鬼一郎さん、「公家さま同心 飛鳥業平」の早見俊さんという四人の人気作家が登場する。
上田秀人さんの「宿場の光」は、奥州棚倉藩内藤家の藩士・安積新之介が、国元から江戸に向けて出府し、千住宿に到着したところから始まる。
内藤家は、国元派と江戸派が対立する御家騒動が起こっていたが、騒動を決着するために当主の内藤飛騨守は、国元で勘定奉行を務める安積家の跡継ぎ・新之介を、江戸派の重鎮の娘・順性寺香苗の婿とするよう命じた。しかし、国元と江戸の融和を保つために江戸にやってきた新之介を待っていたのは、香苗の父順性寺内膳をはじめとする江戸派による嫌がらせだった……。
縁組みしたとはいえ敵味方同士の新之介と内膳・香苗父娘との丁々発止とした言葉のやり取りが面白かった。今回は短編だったので、長編でも読んでみたいところ。
倉阪鬼一郎さんの「廻り橋」は芝が舞台。飯倉神明宮の境内で、羽二重を素材にしたつまみ簪の露地見世を出す男・巳之助は、七年間、一日も欠かさずに神明宮にお参りをしていた。神明宮には、ひそかにささやかれている御利益があり、まことか嘘かわからないが、巳之助は儚いうわさに賭けていた……。
ハートウォーミングな物語で、読後の余韻が残る佳編。倉阪さんのシリーズものを読んでみたくなりました。
辻堂魁さんの「悲悲……」は、『月夜行 風の市兵衛』に登場する、介錯人別所龍玄を主人公とした短編。子を思う親の思いという重いテーマを扱いながら、龍玄の凛とした立ち振る舞いを通して描かれていて、こちらも読み味の良さが残ります。
早見俊さんの「仇でござる」は、ドタバタ人情市井小説。
両国西広小路で、大道芸を生業にする浪人・根岸宗之助は、「いざ、仇、尋常に勝負せよ」と、十二、三歳の少年に白刃を向けられる。ひょうなことから、宗之助は、仇討を助太刀することに……。
目次■【千住宿】宿場の光 上田秀人|【芝】廻り橋 倉阪鬼一郎|【板橋宿・志村】悲悲……|【両国】仇でござる 早見俊