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穴屋佐平次難題始末

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穴屋佐平次難題始末
穴屋佐平次難題始末
(あなやさへいじなんだいしまつ)
風野真知雄
(かぜのまちお)
[伝奇]
★★★★☆

文庫書き下ろし。

大きいところでは金山の坑道のようなものから、小さいのは針の穴のようなものまで、どんな穴でも開ける。穴開け職人――広い江戸にも一人しかいないという変わった商売の穴屋佐平次が活躍する痛快伝奇時代小説。

 それは妙な看板だった。いや、看板よりも商売の中身が妙なのかも知れなかった。
 まな板ほどの板っ切れに、うまくはないが味のある字で、
「穴屋」
 と書いてあるのだ。そのわきに、
「どんな穴でも開けます。開けぬのは財布の底の穴だけ」
 と小さく付け足してあった。

(『穴屋佐平次難題始末』P.5より)

主人公の佐平次は、歳は二十七、八で、色は黒く、精悍な顔立ちだが、どこかに妙な愛嬌や人なつっこさを感じさせる。自己流で始めた穴屋稼業だが、根付の細工師と宮大工の見習いの経験があり、ふた月ほど、佐渡の金山にもいたという。もともと穴を開けるという行為に妙な興味と快感を覚えるタチ。

この奇妙な穴屋のもとに、いろいろな依頼人が現れて、さまざまな穴を所望していく。それぞれの話に、穴を開けるシーンをクライマックスに起承転結が描かれていて読みやすい。また、各話に当時の著名人が登場するのも何とも楽しい。

へび屋の娘お巳よをはじめ、「夜鳴長屋」の住人たちが、佐平次の仕事を手伝う。初刷時から装画が変わったのだろうか? 手元にある本のカバー装画は、宇野信哉さんが描かれたもので、ヘビを手にしたお巳よが可憐な感じでいい。

主な登場人物
佐平次:本所緑町の夜鳴長屋に住む穴屋
お巳よ:ヘビ屋の娘
お面屋次郎吉:依頼された人間にそっくりの木彫りの面をつくる男
御免屋:揉め事の間に入って依頼人の代わり謝って話をつけるのが仕事
葛飾北斎:絵師
大黒屋:ろうそく問屋
およし:大黒屋の妾
岩三:下谷界隈を縄張りとする岡っ引き
藤五郎:元相撲取りの用心棒
渡辺忠右衛門:旗本早瀬虎之助の用人
さくら:早瀬家の姫
遠山金四郎:武家の若者
比火利教の教祖
上総屋惣兵衛:日本橋本町一丁目の薬種問屋
柳亭種彦:戯作者
安井:平川町に住む旗本
佳代:旗本の奥方
山田浅右衛門:将軍家御佩刀御試御用役
大田南畝:江戸文壇の大御所
尾形清十郎:町廻り同心
うまい屋の蝶吉:うまいものをほめる商売
十返舎一九:戯作者
斎藤月岑:江戸草分け名主:斎藤市左衛門の子息
栄松斎長喜:絵師
大柴田:野州に縄張りを持つ博徒の親分
バッテン兄弟:大柴田一家の侠客の兄弟。顔に刀傷を持つ
三蔵:穴開け屋
二宮金次郎:農政改革者
吾作:百姓
ウシムキのおせん:壺ふりの姐さん
川村忠右衛門:お庭番
シーボルト:出島の医師
お滝:シーボルトの妻
中井喜三郎:通詞見習い
おのぶ:患者

物語●本所緑町の通称「夜鳴長屋」には、おかしな商売を営む者が多いことで知られる。「どんな穴でも開けます。開けぬのは財布の底の穴だけ」という穴屋もその一つ。その「穴屋」の佐平次のもとに、絵師を名乗る一人の老人が客としてやってきた。絶世のいい女を自分の筆で描きうつすために、のぞき穴を掘ってほしいという…。

目次■第一話 穴屋でございます|第二話 猫に鼻輪をつけてくれ|第三話 大奥ののぞき穴|第四話 首斬り浅右衛門の穴|第五話 殺ったのは写楽|第六話 土が好き、穴が好き|第七話 愛する穴屋

カバーイラスト:宇野信哉
カバーデザイン:犬田和楠
時代:文政六年(1823) 大田南畝の亡くなった年
場所:本所緑町、相生町、根岸、横川法恩寺橋近く、大伝馬町、平川町、淡路坂、小石川原町本念寺、野州桜町領、入谷鬼子母神裏、栗橋、長崎、ほか
(徳間書店・徳間文庫・590円・2008/02/15第1刷・2008/10/05第2刷・332P)
入手日:2012/05/23
読破日:2012/05/26

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