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武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新

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武士の家計簿 「加賀藩御算用者」の幕末維新武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新

(ぶしのかけいぼ かがはんごさんようしゃのばくまついしん)

磯田道史

(いそだみちふみ)
[歴史読み物]
おすすめ度:★★★★☆☆

著者の磯田さんは、金沢藩の下級武士の猪山家の家計簿(金沢藩士猪山家文書)を古書店から入手した。天保十三年(1842)年から明治十二年(1879)まで実に三十七年間にわたるほぼ完全な保存状態での記録である。しかも、猪山家は金沢藩で「御算用者(ごさんようもの)」と呼ばれる「加賀百万石の算盤係」、いわば会計処理(経理の専門家)のプロだったから、自宅の私的な家計簿の完成度が高いのも当たり前。

磯田さんは、それを丹念に解読していき、時系列に幕末から明治初期にかけての代表的な武家の経済状態を解説し、裏づけデータとしてこの資料を活用している。はしがきに書かれた「金沢藩士猪山家文書」の入手のくだりから、歴史家らしからぬ、大胆でもったいぶったところのない文体で、読者の好奇心を引き付ける。

加賀藩の御算用者の一家が残した古文書をもとに、その家族が経験した歴史を浮かび上がらせるスリリングなノンフィクションであった。それはまた、「ある家族の生活の歴史」であるばかりか、幕末から明治の武家および士族の経済状況をわかりやすく解き明かす興味深い読み物でもあった。

江戸時代、金と銀の二つの通貨圏があったことはよく知られている。江戸を中心とした東日本の「金遣い」に対して西日本は「銀遣い」であった。『武士の家計簿』に登場する磯山家は、加賀藩士の家系で、金沢も「銀遣い」であり、「銀何匁」という表現がたびたび登場する。

金と銀のほかに、日常生活で使用する少額貨幣は「銭何文」という形の「銭遣い」で、これは全国共通だった。江戸時代の金・銀・銭・米の複雑な換算を、著者の磯田さんは「江戸時代の貨幣と価値」として紹介されていた。この本のおかげで銀に関する感覚がだいぶできた。

今まで読んできた本では、1両の価値を4万円?25万円ぐらいでとらえるものが多かった。自分自身の感覚では、1両=15万円ぐらいと考えていたので、その倍ぐらいの価値と修正したほうがより現在の状況に近いのかもしれない。

磯田さんは、『殿様の通信簿』という歴史エッセイの第2弾を発売されたところ。こちらも面白そうな本である。

目次■はしがき「金沢藩士猪山家文書」の発見|第一章 加賀百万石の算盤係(わかっていない武士の暮らし/「会計のプロ」猪山家/加賀藩御算用者の系譜/算術からくずれた身分制度/御算用者としての猪山家/六代 猪山左内綏之/七代 猪山金蔵信之/赤門を建てて領地を賜る/江戸時代の武士にとって領地とは/なぜ明治維新は武士の領主権を廃止できたか/姫君様のソロバン役)|第二章 猪山家の経済状態(江戸時代の武士の給禄制度/猪山家の年収/現在の価値になおすと/借金暮らし/借金整理の開始/評価された「不退転の決意」/百姓の年貢はどこに消えたか/衣服に金がつかえない/武士の身分費用/親戚づきあいに金がかかるわけ/寺へのお布施は一八万円?/家来と下女の人件費/直之のお小遣いは?/給料日の女たち/家計の構造/収入・支出の季節性/絵にかいた鯛)|第三章 武士の子ども時代(猪山成之の誕生/武家の嫁は嫁ぎ先で子を産むのか?/武家の出産/成育儀礼の連続/百姓は袴を着用できなかった/満七歳で手習い/満八歳で天然痘に感染/武士は何歳から刀をさしたのか)|第四章 葬儀、結婚、そして幕末の動乱へ(莫大な葬儀費用/いとこ結婚/出世する猪山家/姫君のソロバン役から兵站事務へ/徹夜の炊き出し/大村益次郎と軍務官出仕)|第五章 文明開化のなかの「士族」(「家族書簡」が語る維新の荒波/ドジョウを焼く士族/廻船問屋に嫁ぐ武家娘/士族のその後/興隆する者、没落する者)|第六章 猪山家の経済的選択(なぞ士族は地主化しなかったか/官僚軍人という選択/鉄道開業と家禄の廃止/孫の教育に生きる武士/太陽暦の混乱/天皇・旧藩主への意識/家禄奉還の論理/子供を教育して海軍へ/その後の猪山家)|あとがき|参考文献リスト

デザイン:新潮社装幀室

(新潮新書・680円・2003年4月10日第1刷、2005年4月10日第24刷・222P)
購入日:2006/08/20
読破日:2006/08/27

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