孤愁の鬼

孤愁の鬼

(こしゅうのおに)

乾荘次郎

(いぬいそうじろう)
[幕末]
★★★★

天保の改革でおなじみの“妖怪”こと鳥居耀蔵の晩年を描く表題作ほか全5篇収録の短篇集。新人作家だが、高橋克彦さんの推薦文がついていた。1998年の第6回松本清張賞で、最終選考まで残り注目されたらしい。

「孤愁の鬼」伝奇小説や捕物帳などで、おなじみの鳥居耀蔵。その晩年の姿はあまり描かれたことがないと思う。その観点からもこの物語は貴重だ。美化もされず貶されもしない、等身大の耀蔵がそこにいるようだ。「路銀」幕末維新の激動の中で、多くの無名の人たちが翻弄されてきたんだなあ。「写真」新しい文明の利器・写真が若い二人にもたらす悲劇とは…。「扇屋隆斎」諸国を自由に行き来できる絵師は、佐幕派・勤皇派にとっても気になる存在だったらしい。絵師として身を立てることと、殺伐とした京の町で身を守ることについて、思い悩む主人公を描く好編。「護衛」幕末の徳島藩を描いた短篇。歴史の傍観者 に近いポジションにあった一つの藩のあり方が垣間見られる。

作品としては、「孤愁の鬼」と「扇屋隆斎」が出色の出来だが、他の作品も幕末・維新を感じさせてくれて面白かった。長篇も読んでみたい。

物語●「孤愁の鬼」徳川幕府が瓦解し、讃岐丸亀京極家へ幽閉されていた鳥居耀蔵が、二十三年ぶりに江戸に戻って来た…。「路銀」幕兵に屋敷を囲まれ火を放たれた薩摩藩上屋敷では、百五十人の浪士に、三田通用門から出て鮫洲沖に停泊する薩摩藩の翔鳳丸に乗り込み京へ向かうように命じられた。全員にひとり五十両ずつの路銀が渡された。武州入間郡の農家の長男で志士を目指して三年前に江戸に出てきた藤太もその中に含まれていた…。「写真」横浜で、港に入ってきた異国船のそばへ小舟を出し、船員が捨てたビールやブランデーの空き瓶を拾って業者に売るがらがら引きを生業にする勘次。港崎の遊郭で、十日に一度おみつを抱くことを唯一の楽しみにしていた…。「扇屋隆斎」夕暮れの京の小路を十徳姿の隆斎は歩いていたが、何者かに付け狙われていた…。「護衛」長江友三郎は心形刀流の目録の腕を買われて、兄から足利将軍三代の木像梟首事件の犯行者の一人、中尾久平の監視役を命じられた…。

目次■孤愁の鬼|路銀|写真|扇屋隆斎|護衛|大器の予感 高橋克彦

カバーイラストレーション:安里英晴
カバーデザイン:長谷川正治
解説:高橋克彦
時代:「孤愁の鬼」明治元年十月。「路銀」慶応三年十二月。「写真」慶応三年。「扇屋隆斎」元治元年。「護衛」慶応三年。
場所:「孤愁の鬼」渋谷宮益坂、百人町、駿府小島。「路銀」薩摩藩上屋敷、品川宿。「写真」横浜港崎遊郭、入舟町。「扇屋隆斎」塩屋町仏光寺通り上ル。「護衛」徳島、麹町ほか。
(廣済堂文庫・619円・04/02/01第1刷・307P)
購入日:04/02/01
読破日:04/02/10

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