安政五年の大脱走

安政五年の大脱走

安政五年の大脱走

(あんせいごねんのだいだっそう)

五十嵐貴久

(いがらしたかひさ)
[伝奇]
★★★★☆☆

『安政五年の大脱走』を入手した。帯に、「名画『大脱走』を超える痛快、感動の娯楽大作!」とキャッチコピーが書かれていた。『大脱走』というと、スティーブ・マックイーン主演の捕虜収容所を舞台にしたアクション映画で、40代~50代の方にはとても懐かしく感じられるのではないだろうか?

五十嵐貴久さんの書かれたこの時代小説は、井伊直弼を敵役に、幕末近くの安政五年に時代を据えている。桜田門外の変で、命を落とした大老を描いた時代小説は多い。キャラクターが立ちやすい人物だけに、物語のアンチヒーローとしては収まりがいいのである。

『安政五年の大脱走』の表紙に、The Great Escape of 1858とサブタイトルが英語で入っていて、あまり見られない手法でカッコいい。幻冬舎文庫のイメージキャラクターに、北海道日本ハムファイターズの新庄剛志が起用され、メガネを掛けて読書中の写真が帯に使われていた。新庄と読書のギャップが新鮮で面白い。

五十嵐貴久さんは、時代小説は初めてで、主に現代的なエンターテインメント小説で活躍しているということもあり、スピード感があって現代風の読み味のよい作品だった。

物語は、大老井伊直弼が無理やり謀反の嫌疑をかけて、南津和野藩士五十一人と姫・美雪を、脱出不可能な山頂に幽閉したことから始まる。直弼の懐刀の長野主膳の鬼謀で、四方を切り立った崖に囲まれたすり鉢状の山頂に囚われ、唯一の出口に通じる道は竹矢来で阻まれ、その向こうには鉄砲を持った彦根藩士が見張っている。絶望的なシチュエーションで、姫と藩士たちはいかにして大脱走を図るのか…。

南津和野藩の人たちの脱出までのドラマが圧巻。とくに極限状態に置かれた藩士たちの生き様が感動的であり、時代小説畑の人では想定外のストーリー展開にディープなインパクトを覚えた。五十嵐さんにはぜひまた時代小説を書いてほしいと願ってやまない。

物語●彦根藩十一代藩主井伊直中の十四男の井伊鉄之介は、公家の南津和野藩主の養女美蝶に一目ぼれしたが、部屋住みの身分で相手にもされなかった。それから二十四年の歳月が流れ、鉄之介は、直弼と名を改めて、彦根藩三十五万石を担い、大老の重責を負う身となった。ある日、下城の折に、かつて思いを寄せた美蝶と瓜二つの美しい姫美雪を見かけて、何としても側室として迎えようと思った…。

目次■一章 井伊直弼の恋/二章 桜庭敬吾の岳/三章 堀江竹人の土/四章 松井美雪の空/五章 犬塚外記の忠/その後のこと/解説・細谷正充

カバーデザイン:藤田新策
解説:細谷正充
時代:安政五年(1858)
場所:彦根、江戸城、江戸彦根藩邸、愛宕青松寺、絖神岳ほか
(幻冬舎文庫・686円・05/04/30第1刷・494P)
購入日:05/05/10
読破日:05/05/29

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