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ぬしさまへ

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ぬしさまへぬしさまへ

(ぬしさまへ)

畠中恵

(はたけなかめぐみ)
[ファンタジー]
★★★★☆

畠中惠さんの『ぬしさまへ』を入手する。日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した『しゃばけ』に続く人気ファンタスティック捕物シリーズ第2弾。このシリーズの最大の魅力は、主人公の廻船問屋兼薬種問屋の長崎屋の若だんな一太郎を助ける妖(あやかし)たちのユーモアを交えた言動である。病弱の若だんなを助ける手代の佐助と仁吉は、妖怪の犬神(いぬがみ)と白沢(はくたく)で、病弱で友だちの少ない一太郎の兄や(にいや)代わりも務める。

屏風のぞきや獺(かわうそ)、野寺坊(のでらぼう)に、鈴彦姫、濡女(ぬれおんな)、鳴家(やなり)という家に居付く小鬼たちまで、いずれも明るく、みんな一太郎にめっぽう甘い。そんなキャラクターたちが活躍する。

プロフィールによると、作者の畠中さんというと、以前に漫画家をされていたそうで、キャラクターが映像的なのもうなずけるところ。さらに、推理小説家として活躍され、砂絵のセンセーが活躍する「なめくじ長屋捕物さわぎ」シリーズで知られる、都筑道夫さんの小説講座に通って小説家デビューを目指されていたそうだ。

奇想天外なシチュエーション、集団のキャラクター造形や探偵役の推理方法など、都筑作品の影響が感じられて、かつての都筑ファンの一人として、畠中さんの活躍ぶりがうれしいところ。

今回は、若だんなを支える薬種問屋の手代仁吉に大きなスポットが当たっていて、シリーズものの楽しさが満喫できる。「ぬしさまへ」は、その仁吉がもらた付け文(ラブレター)が事件の大きな鍵を握る。また「仁吉の思い人」は、その仁吉の片思いを描いたロマンティックな話。

しかしながら、この作品がスゴイのは、ユーモアやファンタスティックなところや、謎解きばかりでない。絶望感から心に鬼を飼った娘、遺産相続をめぐる肉親の争い、将来への不安から弱い生き物を虐待して気を紛らす男、モラル・ハラスメント(ことばの暴力)に怯える人たちなど、現代の犯罪にもつながる心理状況がきちんと描かれているところは見逃せない。

物語●「ぬしさまへ」廻船問屋兼薬種問屋長崎屋の若だんな一太郎は、大熱を出して寝込んでいた。その寝床に手代仁吉の袂に入っていた文が持ち込まれた…。「栄吉の菓子」一太郎の幼馴染みで、長崎屋の隣にある菓子屋三春屋の跡取り、栄吉の作った菓子を食べた隠居が死に、栄吉が番屋に連れて行かれたという…。「空のビードロ」一太郎の異母兄の松之助が奉公する桶屋東屋で、飼い猫のおたまが首を切断されて殺されているのが見つかった…。「四布の布団」長崎屋の若だんな一太郎は夜具の内で、若い女の押し殺したような泣き声を聞いた…。「仁吉の思い人」猛暑で食欲の落ちた一太郎に何とか薬を飲み込ませようと、手代の佐助は取って置きの話として仁吉の失恋話をしてくれるという…。「虹を見し事」いつもなら咳を一つすれば手代たちを始め、日頃若だんなを飴で煮込むように甘やかしている妖怪連中が、その日に限ってだれも顔をださなかった……。

目次■ぬしさまへ|栄吉の菓子|空のビードロ|四布の布団|仁吉の思い人|虹を見し事|解説 藤田香織

デザイン:柴田ゆう
挿画 柴田ゆう
デザイン:新潮社装幀室
解説:藤田香織

時代:明記されず
場所:日本橋から通町を南に歩いた京橋近く、呉服町、中ノ橋のたもと、松川町、加州様のお屋敷近く、通り四丁目、不忍池ほか

(新潮文庫・476円・05/12/01第1刷・318P)
購入日:05/12/06
読破日:05/12/10

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