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閉じられた海図

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閉じられた海図
閉じられた海図
(とじられたかいず)
古川薫
(ふるかわかおる)
★★★★

古川薫さんというと、白石一郎さんとならんで、西国を舞台とした時代小説が多い作家である。とくに長州ものの第一人者である。

この作品は、お隣の石見国浜田藩六万石が舞台である。当時の浜田藩主は、老中の松平周防守康任で権力の中枢にあるわけだが、賄賂など政治資金のために、藩の財政が傾いていた、という実状が面白かった。どうも、政治家というと私腹を肥やしている印象が強いのだが…。田沼意次以降の幕府の権力者が執政の座から滑り落ちたときから、不遇の晩年を送っていくのが、何か象徴的な感じがする。

主人公の会津屋八右衛門と橋本三兵衛は、当時の幕府を震撼させた「竹島事件」の当事者である。本書を読むまでは、このような事件があったことをまったく知らなかった。同時期の大事件の「仙石騒動」も描かれていて、なかなか興味深かった。

こんな風に書いていると薄汚い、ドロドロした物語のイメージを与えてしまうかもしれないが、主人公の八右衛門は、海の男らしく筋の通った、爽やかな人物として描かれている。あとがきによれば、浜田では、今でも鎖国の禁を犯して南海に雄飛した八右衛門の事蹟は誇らしげに語られ、顕彰碑が海を見下ろす岩場に立てられているという。

◆主な登場人物
橋本三兵衛:岡田頼母の家臣、陪臣ながら浜田藩の勘定方に勤める
会津屋八右衛門:廻船問屋主人
冴:若松屋の娘で、八右衛門の妻
キク:八右衛門の母
岡田頼母:浜田藩家老
間宮林蔵:幕府隠密
清助:八右衛門の父、会津屋の先代
渡辺崋山:海外知識が豊富な儒学者
松井図書:浜田藩中老
平右衛門:小豆島に住む船乗り
田中織部:元備中岡田藩士の浪人
平助:会清丸の表(おもて、航海士)
伊藤杢之允:下関の廻船問屋
井上河内守正春:寺社奉行
筒井伊賀守政憲:町奉行

物語●天保六年夏。石見国浜田藩の勘定方に勤める橋本三兵衛は、松原湾を見下ろす岩場で、会清丸の帰りを待っていた会津屋八右衛門の妻・冴を見つけた…。
浜田藩主・松平周防守康任(やすとう)は、時の老中だったが、藩の財政は困窮していた。その穴埋めのために、城下の廻船問屋会津屋八右衛門は、鎖国の幕法を犯して、交易に手を染めることになった…。

目次■第一章 日本海を望む城/第二章 蘇鉄屋敷の密謀/第三章 権力抗争/第四章 隠密林蔵/第五章 南十字座の星/第六章 破局/第七章 波涛の夢/あとがき/解説 山本容朗

カバー:安野光雅
解説:山本容朗
時代:天保六年夏
舞台:石見国浜田。
(文春文庫・369円・1992/06/10第1刷・244P)
購入日:97/06/10
読破日:98/06/02

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