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勇魚 上・下

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勇魚 上
勇魚 上・下
(いさな・じょうげ)
C.W.二コル
/村上博基訳(C.W.にこる)
[海洋]
★★★★☆☆☆ [再読]

十数年ぶりにニコルさんの続編『盟約』The Allianceが刊行されたのを機に、数年ぶりに『勇魚』を手にした。読みながら、何とまあ、ストーリーを忘れてしまったことか、自分でも呆れてしまう。無茶苦茶面白かったということと、ニコルさんに似た船長が登場することくらいしか、記憶にのこっていなかったのだ。読み直してみて本当によかった。初読のように、わくわくしながら読めて、大いに感動した。

ニコルさんの温かく真摯な話しぶりが眼に浮かぶような作品だ。英文で書かれて翻訳されて出版された時代小説(英語のタイトルはHarpoon、銛の意味)というのは、これが初めてではないだろうか。訳者の村上さんは、冒険小説の名翻訳で定評がある方だが、この作品でも実にきめ細かい仕事をされたという感じで、翻訳ものという違和感がなかった。
初読のときは、主人公の鯨取りの息子・甚助を中心に読み進めていったせいか、海洋冒険小説の印象が強く残ったが、再読してみると、甚助を新しい世界へと誘う人物として登場する、松平定頼を中心とした、優れた幕末小説でもあることがわかった。

捕鯨の町、太地というと、津本陽さんの『深重の海』(新潮文庫)の舞台でもあるが、本作品と時代的に一部重なるところがあり、描き方や捕鯨業に対する観方の違いが対比できて面白かった。

物語●紀州・太地(たいじ)は、鯨取りの村。筆頭刃刺・達太夫の長男甚助は、はじめての鼻切り(捕まえた鯨に致命傷を与える重要な務め)を成功させて、意気揚々としていた。そんなある日、紀州藩士・松平定頼が太地を訪れた。日本の将来を案じ、海防の要を説く定頼は、熊野海賊の末裔で、組織だった捕鯨を行う太地の鯨取りたちを沿岸警備軍の中核に据えようと考えていたのだった…。

目次■目次なし

装画:古座浦捕鯨絵巻(国文学研究資料館蔵)
装幀:菊地信義
訳者あとがき:村上博基
時代:弘化四年(1847)
場所:太地、江戸麹町、琉球、京、上海、横浜ほか
(文春文庫・各544円・92/12/10第1刷・上445P、下428P)
購入日:1997/06/25
読破日:1999/10/11

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『勇魚 上』(C.W.二コル・文春文庫)
『勇魚 下』(C.W.二コル・文春文庫)