事件の裏に絶世の美女が。前代未聞の町会所強奪事件

美女二万両強奪のからくり 縮尻鏡三郎今年7月に亡くなったことが先日発表された、佐藤雅美(さとうまさよし)さんの人気シリーズの最新文庫作品、『美女二万両強奪のからくり 縮尻鏡三郎』(文春文庫)を紹介します。

「縮尻鏡三郎(しくじりきょうざぶろう)」は、「物書同心居眠り紋蔵」「八州廻り桑山十兵衛」と並ぶ、著者の人気シリーズです。同シリーズは、1999年4月、NHK金曜時代劇「しくじり鏡三郎」の題名で映像化されました。主人公の拝郷鏡三郎(はいごうきょうざぶろう)を中村雅俊さんが演じていました。

捕縛したものを取り調べる仮牢兼調所「大番屋」の元締を勤める鏡三郎が今回遭遇する事件は、町会所の押し込み強盗。町会所とは幕府が貧困や災害時の救恤(きゅうじゅつ)のため民間に設けさせた機関で、そこから二万両が奪われたという。事件は幕閣が震撼するスキャンダルへと意外な展開を見せて……。
(本書カバー裏の紹介文より)

さて、今回、町会所から二万両が強奪された事件を追うのは、鏡三郎と三日に一度、外で酒を酌み交わす酒友である、北町奉行所の臨時廻り同心の梶川三郎兵衛です。

「最近、近くに越してきた者というと、あの噂の女に違いない。だったら、顔を見ておくのもの悪くない。宿直の事務方はそうスケベ心を起こしたと思うのです。なんのためらいもなく潜り戸を開いた。すると、黒ずくめの男二十人ばかりがどどっと押し込み、宿直の事務方三人をぐるぐる巻きにして猿轡を噛ませ、千両箱を一人一つずつですかあ、二万両ほども持ち去り、新シ橋の下に用意していた船で大川の方へ逃げたということです」
「二万両かア!」
 鏡三郎はうめくようにいってつづけた。
「強奪された金としては前代未聞だなあ」
(『美女二万両強奪のからくり 縮尻鏡三郎』P.49より)

鏡三郎は、酒友の刀法指南羽鳥誠十郎と一緒に、向柳原の町会所が遭った強奪事件のあらましを梶川に聞きます。町会所に程近い医学館(幕府の医学校)のすぐ近くにできた怪しい妾宅。囲われているのは誰で、旦那はだれかわからないが、ある晩、柳腰の、笠森お仙か富本豊ひなかという絶世の美女がその家に入っていくのを三人もが目撃したという。

ところが事件の後、絶世の美女がいるという噂の家を当たると、蛻の殻で、そこが盗っ人宿になっていたそうな。

町会所が襲われて二万両が奪われるという町奉行所の面目に関わる大事件に、南北の御奉行は仰天し、双方とも十人ずついる廻り方の役人を集めて、全員が自分の事件だと思って犯人検挙にまい進するように指示を与えます。

梶川は、町会所周辺を廻り場とする北の定廻り同心の小坂金四郎とともに、犯人につながる手がかりをつかむべく、探索を始めます。

探索を始めると、いろいろな小悪党が登場し、事件を複雑なものにしていきます。手がかりを見つけたと思うと、まったく見当違いだったり、寸前で切られたり……。

本書の面白さは、江戸の風俗から町政や犯罪と警察・司法など史実がわかりやすく解説されて物語に織り込まれていて、驚天動地の事件に、臨場感やリアリティを与えている点にあります。町会所が二万両という大金を所有していたというのも驚きです。

事件の鍵を握る絶世の美女を、鈴木春信の美人画のモデルである江戸を代表するアイドル・笠森お仙や、喜多川歌麿が描く寛政三美人の一人で芸者の富本豊ひなになぞらえて描写しているのも面白いところです。

佐藤雅美さんの時代小説を久々に読んで、やっぱり面白いし、江戸時代で本当に興味深い時代だったと再認識しました。

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『美女二万両強奪のからくり 縮尻鏡三郎』(佐藤雅美・文春文庫)
『縮尻鏡三郎・上』(佐藤雅美・文春文庫)
『縮尻鏡三郎・下』(佐藤雅美・文春文庫)