海賊の盗米四千俵を捜す正紀。常陸府中藩では一揆再び

おれは一万石 無人の稲田千野隆司さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 無人の稲田(ぶにんのいなだ)』(双葉文庫)を入手しました。

本書は、一石でも欠けると大名でなくなる、崖っぷちの一万石の下総高岡藩に養子入りして、世子となった、井上正紀が藩が直面する危機を次々と乗り越えていく、痛快な時代小説シリーズの第10弾です。

海賊船は正紀らの活躍で退治したが、一味の幹部と悪徳商人は捕縛の手を逃れ、米俵四千俵とともに行方をくらましていた。賊の背後では大藩の黒幕が手を引いている。黒幕は、ここで手に入れた金を、府中藩の世子問題に利用し、勢力の拡大を図っていた。さらには府中藩領内の行方郡三村では、再び一揆が起きようとしていた。
(本書カバー裏の紹介文より)

前作の『贋作の謀(がんさくのはかりごと)』に続く二カ月連続刊行の第二弾。下総高岡藩の世子・井上正紀が四千俵の盗米(ライス・ロンダリング)事件を追います。

「搾り取るだけでなく、百姓たちにも生きる道を与えなくてはなりませぬ」 正紀は言った。品を励ましたいが、口先だけのことは言いたくなかった。百姓たちをどう生かすか、そこを思案しなくてはならないだろう。
(『おれは一万石 無人の稲田』P.81より)

甥姪の正紀と京を可愛がっている叔母で、常陸府中藩松平家の正室・品が、高岡藩上屋敷へ京を訪ねてきました。

藩内で起こった一揆に心を痛める品を励まそうとする正紀だが、府中藩の世子問題も絡んでいて長引く恐れがあり、新たな手立てを考えなくてはならないと思いを強くします。

「そろそろ、溝切りをしなくちゃあならねえな」
「うん、いい頃だ」
 答えた倅も体を起こし、田を見回した。
 田植えが済んで、一月ほどが過ぎた。そろそろ田の水を抜いて、中干しを行わなくてはならない時期になっていた。水をそのままにすれば、無駄な分糵(ぶんけつ)が起こって発育が阻害される。さらに根腐れの原因にもなった。
 茎数がこれ以上増えるのを抑え、根を強く張らせるための作業だ。田圃では、女房や次男も作業に追われている。
(『おれは一万石 無人の稲田』P.10より)

米が知行や扶持の形で武士の給与替わりになっていた江戸時代。米は現在からは想像もつかないほど大きな意味と価値を持っていて、米をしっかりと描くことは時代小説では重要なことの一つです。

本書では、江戸時代の米作り、田の仕事について、物語の中でリアリティのある記述が随所に出てきて興味深く読み進められます。表紙装画の水を張った稲田の風景とともに鮮やかに眼前に情景が浮かんできます。

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『おれは一万石 無人の稲田』(千野隆司・双葉文庫)
『おれは一万石 贋作の謀』(千野隆司・双葉文庫)