将軍家剣術指南役から北町奉行に。火付け一味を一刀両断

剣客奉行 柳生久通 獅子の目覚め藤水名子(ふじみなこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『剣客奉行 柳生久通 獅子の目覚め』(二見時代小説文庫)を入手しました。

著者の藤さんは、1991年、「涼州賦」で第4回小説すばる新人賞を受賞し、小説家デビュー。『色判官絶句』『赤壁の宴』など、中国を舞台にした歴史小説で活躍され、近年は日本を舞台にした文庫書き下ろし時代小説を発表されています。

将軍世嗣の剣術指南役であった柳生久通は、老中松平定信から突然、北町奉行を命じられる。一刀流免許皆伝とはいえ、市中の屋台めぐりが趣味の男への、あまりに無謀な抜擢に尻込みするが、下手人の知れない、お城近くでの付け火に自らが立ち上がる。親の敵に間違えられたり、昼行灯と揶揄されもするが、能ある鷹は爪を隠す、久通の剣の冴えが、火付け一味を一刀両断!
(本書カバー裏の紹介文より)

本書の主人公柳生久通(やぎゅうひさみち)は、物語の冒頭・で将軍家世嗣・家基の剣術指南役として登場します。

「若君が勘違いなされるのも無理はございません。それがし、柳生姓を名乗っておりますが、そもそも将軍家御指南役であられた柳生様の御身内ではございませぬ」
 久通は正直に告げた。
「そ、そうなのか?」
「はい。本姓は村田と申しまして、祖父の代に、当時の柳生藩主であられた俊方公から、柳生姓を許されました。それ以来柳生を名乗っているのでございます」

(略)

「何故に、そなたの祖父殿は柳生の姓を?」
「剣で身を立てようと思う者にとって、名は、重要な意味を持ちます。如何に腕が立とうと、一介の村田某では、到底雇うていただけませぬ」
(『剣客奉行 柳生久通 獅子の目覚め』P.10より)

久通は、家基に一刀流の奥義である「切落」を披露しますが、家基は柳生新陰流の技ではないのかを問います。久通は、村田の家系の者であることを正直に告げます。少年ながらも思いやり深く、聡明な家基に心を奪われた久通は、夢中で一刀流の基本を伝授します。ところが、家基が父・家治のあとを継いで十一代将軍となることはついに叶いませんでした。

さて、久通は、筆頭老中の松平定信より、前任者の石河正武の死の翌日、北町奉行を命じられます。固辞する久通に、定信は「一刀流の使い手であるそちならば、大岡翁の如く、自ら捕り物の場に出向くこともできよう」と説得します。

剣客奉行の誕生です。一刀流の剣でどんな活躍をするのか、あれこれ考えるとワクワクします。

柳生久通といえば、荒山徹さんの伝奇時代小説『魔岩伝説』では、若き日の遠山金四郎と対決する柳生卍兵衛の父親として登場します。

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『剣客奉行 柳生久通 獅子の目覚め』(藤水名子・二見時代小説文庫)
『涼州賦』(藤水名子・集英社文庫)Kindle版
『魔岩伝説』(荒山徹・祥伝社文庫)