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恵美押勝って、藤原仲麻呂のことだった

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奈良時代は、日本史の授業の最初のほうでやるから、なかなか覚えていない。実は、高橋克彦さんの『風の陣 [大望篇]』を読むまで、恵美押勝(えみのおしかつ)のことをすっかり忘れていた。

風の陣[大望篇] ((PHP文芸文庫))

風の陣[大望篇] ((PHP文芸文庫))

天平宝字四年(760)、橘奈良麻呂の謀反を平定し、権勢を掌中に収めた藤原仲麻呂は、帝の勅命により、恵美姓を授けられて押勝という名前を得た。新しい帝・淳仁天皇を自在に操り、多くの息子たちの地位を引き上げ、磐石な体制を築いた。

牡鹿嶋足(丸子嶋足から名を改める)は、従七位下の階位を授かり、帝の親衛隊である授刀衛に、大志(だいさかん)として招かれていた。強大な権力を背景に、陸奥の黄金を狙っている押勝に対して、嶋足と物部天鈴は智力を尽くした戦いを挑む。

独裁権力を握る押勝に対抗する勢力を結集するために、嶋足と天鈴は、当代一の軍略家で大宰府大弐の吉備真備を訪ね、内道場の禅師の弓削道鏡に肩入れした。そして、道鏡は孝謙太上天皇の病を治し、信頼を勝ち取り、大きな力を持つことになる…。

怪僧道鏡の登場で、平城京の権力闘争は激しさを増し、物語は佳境に入っていく。恵美押勝の乱の起こりから結末まで描かれ、題材が新鮮で興味深く読むことができた。そういえば、これまで恵美押勝の乱を描いた歴史・時代小説を読んだことがなかった。

祈祷や呪術、幻術など掟破りの手法を使う、道鏡のような存在がいなければ、常識人である押勝が自滅するように乱を起こすことは考えられないのかもしれない。ともかく、道鏡が登場するだけで、何をしでかすのか期待感が高まってくる。

『風の陣 [大望篇]』では、恵美押勝の乱を通して、蝦夷の二人(嶋足と天鈴)の活躍ぶりが描かれるとともに、嶋足の恋も描かれ、青春小説の面白さも味わえる。嶋足は、美少女に成長し天鈴の妹、水鈴に惑わされるとともに、傀儡女で予知能力を持つ美女、紀益女にも惹かれる。

「俺と苅田麻呂さまは従四位下。ただの兵にはあらず。間近で道鏡を見ていられる」

(中略)

「やっと蝦夷のために働ける地位を得た。今日から俺は蝦夷に戻る。内裏にはもはや忠誠心などない。この地位を上手く用いていく」

「よく言った! やっぱり俺の嶋足だ」

 天鈴の目からぽろぽろと涙が溢れた。

(『風の陣 [大望篇]』 P.516より)

嶋足と天鈴の友情が何とも快い読了感をもたらす。

■目次

隙風

野風

烈風

向かい風

淫風

風聞

裂き風

涼風

風巻き

風来衆

蛮風

乱れ風

爆風

風に靡く

風雷

鎮風

解説 日高義樹