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風野さんの歴史文学賞作品、待望の文庫化

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風野真知雄さんの『黒牛と妖怪』を読んだ。この短編集は、「黒牛と妖怪」「新兵衛の攘夷」「檻の中」「秘伝 阿呆剣」「爺」の五編の時代小説が収録されている。「耳袋秘帖」、「大江戸定年組」、「四十郎化け物始末」、「若さま同心徳川竜之助」など、多くの人気シリーズをもち、文庫書き下ろしジャンルの代表作家の位置を確立した著者のデビュー作である。

風野さんに注目したのは、十数年前に偶然読んだ『西郷盗撮』だった。残された写真がほとんどないという西郷隆盛の謎を題材に、若き写真家が西南戦争直前の動乱に迫った歴史ミステリー。そのときから、この『黒牛と妖怪』はずっと読みたいと思い続けていた作品である。新人物往来社が5月に新人物文庫を発刊したが、その第1弾に本編が選ばれたのはうれしいことだ。

西郷盗撮

西郷盗撮

「黒牛と妖怪」

江戸が東京と改まり、9月には鉄道の開業式を控えた明治五年の夏。幕府の崩壊で二十三年間の幽囚の身を解かれた、妖怪こと元南町奉行鳥居甲斐守耀蔵は、文明開化の進む東京に舞い戻った。洋風嫌いの耀蔵は、密かにある計画を企んでいた…。

耀蔵の子どもじみた洋風嫌いぶりと、それを脇で見ている孫の嫁で商家出身のお延の対比が面白い。おなじみの「妖怪」が登場するだけで、なんだか楽しく楽しめるのは時代小説ファンのサガか。

この作品で、作者は1993年に第17回歴史文学賞を受賞している。

「新兵衛の攘夷」

長屋の住人たちが奇妙奇天烈な黒船撃退策を次々に披露するユーモア時代小説。

「檻の中」

二十一歳の秋から二十四歳の冬まで、三年間を家の座敷に作られた三畳分ほどの檻の中で過ごした、勝小吉(勝海舟の父)が富くじをめぐる事件の謎を解くアームチェアディテクティブ。後に連作小説の形で『喧嘩御家人 勝小吉事件帖』に発展する。

勝小吉事件帖―喧嘩御家人 (祥伝社文庫)

勝小吉事件帖―喧嘩御家人 (祥伝社文庫)

「秘伝 阿呆剣」

お家騒動もの+剣豪小説の秘剣もののパターンを踏襲しながら、殺伐とした血なまぐささがなくユーモアが感じられる。この短編集の中で好きな作品のひとつ。

「爺」

若き日の織田信長の守り役(養育係)を務めた織田家宿老の平手政秀と信長・濃姫夫婦のやり取りを描いた戦国物。

いずれの作品も作者の後年の活躍を予感させる、ストーリーテリング、オリジナリティー、エンターテインメント性など、高いものがある。

おすすめ度:★★★★☆