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「SP」を想起させる江戸捕物帳

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「SP(エスピー)」(岡田准一さん主演)は最近珍しくハマッたテレビドラマだった。4月に放送されるスペシャル番組が待ち遠しいところ。

千野隆司さんの『霊岸島の刺客』は「南町同心早瀬惣十郎捕物控」シリーズの第5弾だが、今回はまさに江戸のSPともいうべき作品でハラハラドキドキ、興奮した。

霊岸島新川河岸にある大店の下り酒屋問屋・泉州屋鐘左衛門は、妾宅からの帰りに二人組みの刺客に襲われた。南町奉行所の定町廻り同心・早瀬惣十郎は、年番方与力の橋爪より、鐘左衛門を警護する別御用を命じられた。実は、鐘左衛門に店を潰され、夫を自死に追い込まれた老舗下り酒問屋播磨屋の女房おまさが、鐘左衛門の首に千両をかけたらしい…。千両首に釣られて、次々に現れる刺客たちに惣十郎たちは立ち向かうが…。

「南町同心早瀬惣十郎捕物控」シリーズは、一作一作ごとに趣向を凝らした展開が楽しめる。

第一作の『夕暮れの女』では、拷問にかけられて罪を自白し、死罪が確定した男を救うために、再調査に乗り出す。タイムリミットがある中での真犯人探しのサスペンス劇が魅力。二作目の『伽羅千尋』は、殺害現場に残ったにおいを手がかりに事件を追う。三作目の『鬼心』は、誘拐事件を通じて人の心に宿す「鬼心」と家族の絆がテーマで、江戸の操作術が丹念に描かれている傑作。四作目の『雪しぐれ』は押し込みが人質を取って店に立てこもる事件が圧倒的な緊迫感の中で描かれていくところが圧巻だった。

このシリーズが大好きな理由の一つは、惣十郎と妻の琴江の関係である。第一作では、知らない間に溝ができていき、その溝を埋めようと試みるがどうしてもうまくいかない二人が描かれている。その後の物語では、子どものできない二人は、手のつけられない悪ガキ末三郎を養子に迎えようとする。このあたりから、少しずつ二人の溝が埋まり、関係が修復されていくところが丹念に描かれていて共感が持てる。