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ほおずきの根は子堕ろしの薬

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諸田玲子さんの『恋ほおずき』を読み終えた。一つ誤解をしていた。主人公の江与は中條流の女医者だが、この場合の女医者は女医の意味ではなく、女のための医者(つまり婦人科医)のことだった。

江与は、子堕ろしを取り締まる同心津田清之助に対して、

「御法度とわかっておりましても、やむをえず水にしなければならない場合もございます。母親の命にかかわる場合があるのです。さようなときは、わたくしも子堕ろしをいたします」

(中略)

「それは、難産で母子ともども死にかけた場合、ということか」

(中略)

「それも、むろんございます」

「子堕ろしは人殺しだ。命の芽を摘み取ることだ」

「摘み取らねば木が倒れる場合は、いたしかたございません」

「それは生きている者の勝手な言い分だ」

「あなたさまは、子を流さねば生きられぬ者の苦しみをご存じないゆえ、さようなきれいごとをおっしゃるのです」

『恋ほおずき』P87より

恋ほおずき (中公文庫)

恋ほおずき (中公文庫)

産む性としての女の代表である江与の倫理観と、為政者側(男性)を代表する清之助の論理がぶつかるシーン。対立しながらもお互いを意識し始める二人。江与の患者たちはみな、胎児を水にしなければならない、のっぴきならない理由を抱えて女医者を訪れる。そして、彼女らに処方されるのが、ほおずきの根を天日で乾燥させ、砕いて薬研で粉にひいたもの。煎じて飲めば、下腹がぎゅっとちぢまって、激しい痙攣に見舞われる。

子を流さねば生きられぬ者の苦しみを描きながら、その一方で、女医者になるきっかけとなる十七歳のころの事件、蛇骨長屋の悪ガキ平吉の成長や妹・真弓の出生の秘密などを織り込みながら描いていく。幕間に交わされる、江与の父で古医方(本道の医師)の六左衛門と岡っ引梅蔵の俳諧談義がほのぼのとして楽しい。

寒雀寄るな止まるな射て食うぞ(孤鶴)

中條(中条)流の堕胎医を描いた作品というと、川田弥一郎さんの『闇医おげん 謎解き秘帖』もおすすめである。