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幕末維新の混乱を描く短篇

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牧南恭子さんの『女泣川花ごよみ』を読了。新鋭作家の時代小説作品集だが、期待に違わず面白く読める短篇ばかりだった。

「塩なめ地蔵」

三十年ぶりにかつての教え子が突然現れ、寺子屋の師匠の胸に去来した思いは……。

「田楽屋敷」

田楽屋敷と呼ばれる上屋敷の勤番長屋に住む田原弥右衛門と楠甲次郎は、一緒に江戸勤番になって一年。藩主の帰国に合わせてまもなく国許に帰れるところ……。

「草深百合」

江戸常勤で筆頭家老の葛城さまが職を解かれ、国許へお帰りになるという話を聞き、通いの掃除女として屋敷に働くおとらは渡し賃の節約を始めた……。

三篇とも小名木川沿いに生活する人々の人生の一こまを描いたしみじみとした味わいのある短篇である。

今までの短篇と違うトーンの作品が巻末に二編収録されていた。ほかの作品が時代が特定されず、無名の庶民を描いた市井物であるのに対し、この二編は幕末維新の動乱期を舞台に、実在の人物が登場する歴史物になっている。

「薔薇の花園」

材木問屋の娘・浪は、旗本に嫁いだ伯母の命で、拉致されるようにある屋敷に行儀見習いで上ることになった。「花薔薇の間」と言われる部屋に起居する女主人は、浪の前に姿を見せることはないが、京訛りでものやわらかな声をしていた……。

明治維新時の将軍家の夫人の生活を描いているのが、興味深い。

「草莽の臣」

富士本宮浅間大社の第四十四代の大宮司藤井又五郎滋元は、嫁ぎ先から離縁されてきた美貌の妹佐久のことが気になっていた……。

維新後の将軍家の移住にともなって、佐幕派のメッカとなった駿河。かの地で尊皇の臣として神主たちが行動を起こしたということをこの物語を読むまで知らなかった。手垢の付いていない題材を発掘し、面白い作品に仕上げた作者の今後の活躍に期待したい。