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明治の改暦と西洋定時法

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浅田次郎さんの『五郎治御始末』に収録された短篇「西を向く侍」と「遠い砲音」は、明治五年から明治六年にかけて行われた旧暦(太陰太陽暦)から西洋暦(グレゴリオ暦)への改暦と、西洋定時法採用をテーマにした作品である。

知識としては、明治初年に旧暦から現在使われているグレゴリオ暦へ改暦が行われて、従来の不定時法から定時法に変わったことは知っていた。このことにより、閏年を除いては1年が365日になり、時間も時計ですぐにわかり、合理的になり便利になったのではないかと思っていた。

ところが、日月星辰のうつろいに合わせた旧暦は、暦にしたがって種を蒔き、収穫をする百姓や大晦日に掛け取りをする商人にとって、生活の一部であり、改暦による不都合や混乱もあったのだということが、改めてわかった。しかも、明治五年十一月に改暦詔書が渙発され、同年十二月二日をもって大晦日とし、十二月三日を明治六年元日とするという、急なものだった。

その理由を、旧暦のままとすると、明治六年に閏六月をおき、十三カ月、三百八十四日になり、明治四年からの官員(公務員)の月給制度により十三カ月分の俸給が必要になる。また、十二月二日をもって改暦に踏み切れば、二日分しかない十二月分の給与も節約できて、つごう二カ月分の給与を払わなくて済むことが、突然の改暦の真相と喝破している。

また、「遠い砲音」では、明治六年に施行された西洋定時に慣れられず、下賜された西洋時計の三本の針が読み取れない、近衛砲兵中尉の悲喜劇が描かれている。当初近衛連隊では、「七アウワーズ、三十八ミニウト、五セカンド」のように英語で時刻を読み上げていたことが興味深かった。

明治という時代は、西洋文化を吸収していくかたわらで、江戸からの伝統あるものや庶民の生活の中に生きづいていたものをどんどん捨て、壊していった時代でもある。ものすごいスピードで、文化や価値観、生活スタイルが変化していく現在にも重ね合わせることができるような気がする。

五郎治殿御始末 (中公文庫)

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コメント

  1. laotour より:

    思い出しませんませんでしたか。中島みゆきの「時代」という詩を。これ、映画すれば主題歌はこれですよ。