宗旦狐―茶湯にかかわる十二の短編(4)

澤田ふじ子さんの茶をテーマにした短篇集『宗旦狐―茶湯にかかわる十二の短篇 (徳間文庫)』のことに度々触れてきたが、実に興味の尽きない話題が多い。「愛宕の剣」という短篇では、宇治の茶師の上林家が登場する。茶師は格式によって、御物茶師、御袋茶師、御通茶師、仲間席外、平茶師などに分かれていた。茶商でかつ茶園の持ち主であるばかりか、江戸幕府から上方代官衆として扱われ、幕府の御茶御用のため、課税免除の特権を与えられたという。

本能寺の変のとき、徳川家康が河内から本国の三河に向かうのを助け、道案内をしたのが宇治に定着して茶園を営み、信長に茶を献じて百五十石の知行を与えられていた上林久茂だった。家康は伊賀越えを助けた人に厚く報いたり、実にまめというか義理堅い部分がある。

徳川家と深く結びついた上林家は、やがて五家に分かれ「上林五家」を形成する。その2つ下の格式の御袋茶師の上林牛加家十代目は、飛騨の大名金森家から、養子に入った人物というぐらいなので、その権勢の大きさが窺い知れる。茶師の上林家のことは、海野弘さんの『江戸よ語れ』でも、ロマンチックなショートストーリーとして「茶師」という話で紹介されている。

江戸よ語れ

江戸よ語れ