非道、行ずべからず(3)

松井今朝子さんの『非道、行ずべからず (集英社文庫)』を読了。タイトルは、世阿弥の『風姿花伝 (岩波文庫)』の中の言葉、「この道に至らんと思はん者は、非道を行ずべからず」から。中村勘三郎の家に代々伝わる扁額に「非道を行ずべからず」を掲げられていたという。何か一つの道を極めようと思う者は、断じてほかの道に行こうとしてはならない、という意味で、芸道を貫く者の言葉である。

物語は、中村座が炎上し、焼け跡から男の死体が見つかったことから始まる、ミステリー仕立ての時代小説。テーマは「芸道」を貫くことが、「人の道」に対して「非道」であるとしたら…、どう対応するべきか。歌舞伎界という特異な世界を舞台に、歌舞伎興行のディテールやバックステージのドラマまで生き生きと描いた傑作。

六十を過ぎても第一線で活躍する「亀の太夫」こと、名女形の三代目荻野沢之丞の存在感が圧巻。その後継をめぐり争う兄弟、市之介、右源次や大部屋の年増女形の荻野沢蔵、桟敷番の右平次、立作者の喜多村松栄、成金の金主大久保庄助、楽屋頭取の中村七郎兵衛、帳元の善兵衛、大道具方の清兵衛ら、芝居関係者がみな個性的に描かれていて面白い。

江戸の歌舞伎界に題材を取った作品では、『花櫓 (講談社文庫)』も忘れられない。八代目中村勘三郎の二人の娘の恋物語を描いている。

風姿花伝 (岩波文庫)

風姿花伝 (岩波文庫)

花櫓 (講談社文庫)

花櫓 (講談社文庫)