君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話(1)

君を乗せる舟―髪結い伊三次捕物余話』を読んでいたら、髪結いの伊三次が奈良茶飯を食べるシーンが出てきた。

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 吾妻橋を渡った辺りから糠のような細かい霧雨が降ってきた。傘を差すほどではないが黙っていると顔が濡れる。伊三次は台箱を持ち換えて、顔の水気を拭った。

 目指す寮は源兵衛堀に架かる業平橋のすぐ近くの中ノ郷村にある。ちょうど、寮の前に奈良茶飯を喰わせる茶店があると番頭は教えてくれた。

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奈良茶飯は奈良の東大寺や興福寺の僧侶たちの精進料理で、当初は茶を淡く煎じたものに塩を加えて炊き上げた飯だった。庶民に広がるにつれ、そこへ炒り大豆、炒り小豆、焼き栗が入るようになり、とりわけ女性に人気だったようだ。東海道・川崎宿の名物でもあり、万年屋の奈良茶飯として、『欠落ち―公事師政吉御用控 (小学館文庫)』(P.103)に登場している。

向島で、奈良茶飯に精進料理の膳で、春の少し遅いお昼が食べられたら、江戸情緒を感じられるかも。江戸の四季を描いた作品では、『御宿かわせみ』がまず思い浮かぶが、この『髪結い伊三次捕物余話』シリーズもなかなか雰囲気がいい。

新装版 御宿かわせみ (文春文庫)

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