『飲中八仙歌 杜甫と李白』|千葉ともこ|新潮社
2026年2月21日の東京新聞・朝刊の「推し時代小説」のコーナーで、千葉ともこさんの『飲中八仙歌 杜甫と李白』(新潮社)を紹介しました。中国・唐の詩人・杜甫と李白が活躍する、中華エンタメ小説です。新聞では、文字数が限られていましたので、もう少し書かせていただきます。
あらすじ
不遇の中でもなお、志を貫いた傑物がいました。
悪政による貧困がはびこる唐代、仕官を願う杜甫は、花形詩人の李白ら憧れの酒豪を訪ねます。型破りな酒仙たちとの交流を通じ、杜甫は「国破れて山河在り」の境地に辿り着き、民のために諫言することを決意しますが……。
(『飲中八仙歌 杜甫と李白』カバー帯の内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
「国破れて山河在り 城春にして草木深し」(「春望」)の漢詩で知られる唐の詩人・杜甫。本書は、彼の代表作の一つ「飲中八仙歌」に題材を得た中華烈伝です。
伝説の酒豪、賀知章、崔宗之、蘇晋、李白、張旭、李適之、汝陽王李璡、焦遂が登場します。
玄宗皇帝の世。「詩で世を変えよう」と理想を抱き、官人を目指す若者・杜甫。
若き書生然とした杜甫は、隠退して故郷に帰る元重臣・賀知章と酒場で出会い、会っておくべき酒豪たちの名を挙げられます。
杜甫は仕官の伝手を求めて、それら酒仙を次々に訪ね、酒を酌み交わし、熱く語り合います。
そして、知らぬ間に朝廷内の権力抗争へと巻き込まれていきます。
酒呑みの詩人は、飲んでは、「志のない酒飲みはただの飲んだくれで、志ある酒飲みは酒仙になれる」と息巻いたりします。
もう一人の主人公・李白は、宮廷詩人でありながら、寵妃に溺れる皇帝の面前で諫言の詩を作り、朝廷を追われました。
いつも冷静で豪放な即興詩人である李白は、正義感を秘め、陰で人助けをしたりもします。
杜甫とは互いの詩才を認め合い、ともに旅を楽しみながら友情を育んでいきます。
もう二度と会うことはないかもしれない二人の別れの場面は美しく、その詩情に胸が震えました。
国民を顧みない皇帝のもとで悪政が続き、やがて安史の乱が勃発します。
唐の衰退と混迷を背景に、杜甫の葛藤と成長が力強く描かれています。
詩と酒が交錯する、会心の歴史小説の誕生です。
烈伝風に酒仙たちと杜甫の交流を描きながら、民の苦しみや国の将来を憂う社会性、そして深い人間愛を写実的に詠い込む杜甫の詩の魅力も巧みに織り込まれています。
それでいて、ワクワクするような冒険活劇の面白さも兼ね備えた、一粒で幾つもの味わいを楽しめる作品です。
今回取り上げた本
書誌情報
『飲中八仙歌 杜甫と李白』
千葉ともこ
新潮社
2025年12月15日 発行
装画 立原圭子
地図製作 アトリエ・プラン
装幀 新潮社装幀室
目次
第一章 酔狂な長老 賀知章
第二章 当代一の美少年 崔宗之
第三章 天才肌の高官 蘇晋
第四章 天衣無縫の酒仙 李白
第五章 変わり者の張先生 張旭
第六章 鯨の宰相 李適之
第七章 顔を隠した皇族 汝陽王李璡
第八章 志能備の父 焦遂
第九章 国破れて山河在り 杜甫
本文395ページ
四六判ソフトカバー
初出:
「小説新潮」2021年6月号、2022年4・7・11月号、2023年4・7・11月号、2024年3・7月号
なお、単行本化にあたり、加筆修正を施しています。






