このコーナーでは、新しく書棚に加わった本を中心に、少しずつご紹介していきます。
双葉文庫の2026年2月の新刊より
今回は、泉ゆたかさんの『れんげ出合茶屋』、佐々木裕一さんの『新・浪人若さま新見左近(二十一) 鬼剣霧斬り』、鳥羽亮さんの『十三人の戦鬼〈新装版〉』の3冊をご紹介します。
『れんげ出合茶屋』|泉ゆたか|双葉文庫
あらすじ
「酸いも甘いも噛み分けた女中が欲しい」――そんな注文が入り、咲は新しい奉公先のある上野・池之端を訪れます。不忍池近くのあばら家で待っていたのは、幼い頃、母が咲を連れて奉公していた大店の元お嬢様・志摩でした。さらに、妙な色気のある香という女も現れます。志摩が女三人で始めた商いは、なんと男女が人目を忍んで逢瀬を楽しむ出合茶屋。絶品の菜飯や他にはないもてなしで店は大評判になりますが、次々と厄介事が舞い込んで……? お江戸の女たちが元気をくれる時代小説です。
(『れんげ出合茶屋』カバー裏の内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
上野・不忍池の畔で新しい商売を始めようとする女主人は、口入屋に腕利きの女中ではなく、「酸いも甘いも噛み分けた女中」を、と注文していました。
口入屋から紹介されてあばら家にやってきたのは、一度所帯を持ったものの離縁し、色恋沙汰はこりごりという咲。料理と掃除が得意な働き者です。
女主人の志摩は、咲を一目見るなり懐かしがります。幼い頃、咲の母が奉公していた大店のお嬢様が志摩だったのです。紆余曲折を経て、あばら家で再会した二人。
そこへ、香(こう)という不思議な色気を漂わせる女がやってきます。
志摩が始めようとしている新しい商いは「出合茶屋」。この世に色事が嫌いな人はいない、と言い放ちます。
物語は、不忍池の畔にある出合茶屋「れんげや」を舞台に、三人の女たちの奮闘を描きます。喧嘩して泣き、笑い、懸命に働く女たちの物語。読むと元気をもらえる江戸のお仕事小説です。
今回取り上げた本
書誌情報
『れんげ出合茶屋』
泉ゆたか
双葉社・双葉文庫
2026年2月11日 第1刷発行
カバーデザイン 小川恵子(瀬戸内デザイン)
カバーイラストレーション 瀬知エリカ
目次
第一章 天花粉
第二章 蓮飯
第三章 蛇神さま
第四章 遠眼鏡
第五章 紅
解説 青木千恵
本文302ページ
『れんげ出合茶屋』(双葉社・2022年9月刊)を文庫化にあたり、加筆・修正を加えたもの。

『新・浪人若さま新見左近(二十一) 鬼剣霧斬り』|佐々木裕一|双葉文庫
あらすじ
瓦版によって選ばれた“江戸市中十剣士”の者たちが次々に襲われるという事件が起こります。曲者は鬼面を着け、相手に刃を交える間も与えず斬り殺す凄腕だといいます。親友の新見左近や自らも十剣士として名を挙げられていた甲斐無限流の岩城泰徳は、曲者を倒すべく動こうとしますが、思わぬ人物の来訪を受け、曲者の正体とその秘剣の凄みを知ることになります――。葵一刀流が悪を斬る! 人気時代小説シリーズ第21弾です。
(『新・浪人若さま新見左近(二十一) 鬼剣霧斬り』カバー裏の内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
2025年、本シリーズと「公家武者 信平」シリーズ(講談社文庫)、「この世の花」シリーズ(ハルキ文庫)で第14回日本歴史時代作家協会賞シリーズ賞を受賞した著者による最新刊です。
前シリーズ第1巻『浪人若さま 新見左近 闇の剣』がコスミック時代文庫から刊行されたのは2010年9月。15年以上にわたり刊行が続く人気シリーズです。
高貴な身でありながら庶民にも温かなまなざしを向ける、人情に厚い主人公・左近が、葵一刀流を駆使して悪を斬る勧善懲悪の痛快物語は、後を引く面白さがあります。
本作では、表題作のほか、西ノ丸大手門前で老武士が切腹し、西ノ丸様(徳川家宣)に直訴する場面から始まる「直訴」など、全4編を収録しています。
「直訴」では、下野鴻野山藩の藩主が参勤交代で国許に戻ると横暴な振る舞いを繰り返し、訴状の主の息子の嫁と孫娘が連れ去られた末に殺され、その三日後には、公金横領の罪を着せられた息子が十分な吟味もされずに藩主自らの手で斬首されたといいます。
鴻野山藩は石高一万石ながら、先祖は徳川の天下取りに功があり、代々十万石相当の家格を認められた名門です。江戸城で見る藩主は周囲に気を配り、常に怯えた様子で、幕閣や諸大名たちからは気が小さい人物と評されています。
左近は、老武士が命を懸けて訴えたこの件を捨て置くことができず、浪人新見左近として下野鴻野山の城下へ潜入します。
本シリーズの魅力の一つは、左近を支える多彩な人物たちの存在です。本作では、甲州忍者の頭目・吉田小五郎とその部下かえでが夫婦に扮して城下へ潜入し探索を行います。また、公家の養子で左近の友人・岩倉具家も登場します。
読後は気分爽快な一冊です。
今回取り上げた本
書誌情報
『新・浪人若さま新見左近(二十一) 鬼剣霧斬り』
佐々木裕一
双葉社・双葉文庫
2026年2月11日 第1刷発行
カバーデザイン 長田年伸
カバーイラストレーション 室谷雅子
目次
第一話 直訴
第二話 鬼剣霧斬り
第三話 主君の刀
第四話 恋女房
本文284ページ
文庫書き下ろし

『十三人の戦鬼〈新装版〉』|鳥羽亮|双葉文庫
あらすじ
出羽国で七万石を抱える石館藩では、権勢をほしいままにする奸臣によって、民を虐げる悪政が敷かれていました。藩の行く末を憂いた鴨井兵助は、追手を振り切って江戸へ逃れ、悪漢たちを討つための仲間を募ります。鴨井の思いに共鳴した凄腕の戦鬼たちが集結し、一路石館藩へと向かいますが、その先には数多の敵と謀略が待ち受けています。十三人の烈士たちは、果たして悪を討ち、苦しむ人々を救うことができるのでしょうか。剣豪小説の名手による傑作時代小説が、新装版にて堂々刊行です。
(『十三人の戦鬼〈新装版〉』カバー裏の内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
本書は、2005年6月に双葉社より単行本として刊行され、2008年1月に文庫化された『十三人の戦鬼』(双葉文庫刊)の新装版です。
著者の鳥羽亮さんは、1990年に『剣の道殺人事件』で第36回江戸川乱歩賞を受賞。サスペンス・推理小説を相次いで発表した後、1994年に時代小説『三鬼の剣』を刊行しました。同作は剣豪小説とミステリーが融合した、抜群の面白さを持つ作品です。
初期の時代小説作品は単行本から文庫へと刊行され、その後2000年前後からの文庫書き下ろしブームの波に乗り、次々にヒットシリーズを生み出してきました。
本書はシリーズ作品ではなく、単発の長編小説です。
出羽国七万石の石館藩(架空)では、幼い藩主を傀儡とする国家老が民を虐げる悪政を敷き、私腹を肥やしていました。大目付をはじめ、町奉行や徒士頭、勘定奉行、側用人までもが国家老派に属し、反対する者たちは次々に罪を着せられて粛清されていきます。
若き藩士・鴨井兵助は、奸臣を討ち藩政を取り戻すため、江戸へ赴き、腕の立つ者を十人ほど集めて国家老派を一掃することを企てます。
心形刀流の道場主・平井重兵衛、深川界隈で死神と呼ばれた剣鬼・犬神平九郎、関口流柔術の達者・近藤新八郎、元伊賀者の助六、居合の達人・甚助ら、一騎当千のつわものたちが集結します。
本書の最大の魅力は、わずか十三人の戦鬼と少数の反対派藩士で一藩を相手に戦を挑むところにあります。戦鬼たちを勧誘し仲間に加えていく過程から決戦まで、一気呵成に読ませる筆致は止まらない面白さです。
実働部隊として国家老の悪政を支える凄腕の大目付との対決、そして張り詰めた緊張感みなぎる剣戟描写によって、その面白さは極限まで引き出されています。
ふたりは動きをとめた。痺れるような剣の磁場がふたりをつつんでいる。 塑像のように動かないふたりの間を、細雪が流れている。
(『十三人の戦鬼〈新装版〉』より)
時代小説の醍醐味を存分に堪能できる本作が、新装版として登場したことをうれしく思います。
今回取り上げた本
書誌情報
『十三人の戦鬼〈新装版〉』
鳥羽亮
双葉社・双葉文庫
2026年2月11日 第1刷発行
カバーデザイン 泉沢光雄
カバーイラストレーション 朝江丸
目次
第一章 江戸の斬鬼たち
第二章 出羽国へ
第三章 密告
第四章 反攻
第五章 城郭
第六章 江戸へ
本文300ページ
『十三人の戦鬼』(双葉文庫、2008年1月刊)の新装版











