【今日の書棚】人情、痛快活劇、中華エンタメ、文庫で楽しむ3冊

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このコーナーでは、新しく書棚に加わった本を中心に、少しずつご紹介していきます。

祥伝社文庫の2026年1月の新刊より

2月に入って早くも10日が経ちましたが、今回は祥伝社文庫の1月の新刊を取り上げます(ひと月遅れとなってしまい、すみません)。
祥伝社文庫は、文庫書き下ろし時代小説に力を入れている、愛読しているレーベルの一つです。

今回は、麻宮好(あさみや・こう)さんの『筆耕屋だんまり堂 心の色を文字にします』岡本さとるさんの『三十石船〈新装版〉 取次屋栄三』田中芳樹さんの『残照』の3冊を紹介します。

『筆耕屋だんまり堂 心の色を文字にします』|麻宮好|祥伝社文庫

あらすじ

水沢数馬は深川の蜜柑長屋で、姪の春佳とともに筆耕屋を営んでいる。数馬は訳あって口が利けないが、文字に触れると書き手の想いや過去が心に浮かぶ――そんな才を持つがゆえ、依頼人に寄り添った仕事をすると評判だ。今日も“だんまり堂”には、迷子の娘を捜し続ける夫婦、冥土からの文を求める飛脚、大店の娘に料理帖を託したい女中が訪れ……。温かな人情時代シリーズ開幕!

(『筆耕屋だんまり堂 心の色を文字にします』カバー裏の内容紹介より抜粋・編集)

ここに注目!

筆耕屋だんまり堂 心の色を文字にします
著者は、2022年に『恩送り 泥濘の十手』で第1回警察小説新人賞を受賞し、2025年には『お内儀さんこそ、心に鬼を飼ってます』で第14回日本歴史時代作家協会賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞しました。

単行本だけでなく、文庫書き下ろしシリーズでも次々と作品を発表しており、時代小説界の期待の新鋭です。筆の速さと確かなストーリーテリングで、存在感を示しています。

本作の主人公は、姪と二人で暮らす筆耕屋・水沢数馬です。口が利けないため、依頼があると筆談で応じるか、九歳になる姪の春佳が接客をします。その様子から、人々はこの店を“だんまり堂”と呼ぶようになりました。

筆耕屋とは、戯作草稿の清書や書物の写し、文の代筆、遺言書の作成、看板書きなど、あらゆる「書く」仕事を請け負う生業です。
だんまり堂に頼むと願いが叶うという評判が立っていましたが、それは、文字に触れると依頼人の思いや過去が心に浮かぶという数馬の才によるものでした。
数馬は、その力を使い、依頼人の心に寄り添う代書をしていたのです。

そんなだんまり堂に、迷子の娘を七年間捜し続けている夫婦が訪れます。
神田紺屋町で染物屋を営む儀平次ととよの娘・藍は、文化四年、永代橋の東袂で、四つのときにはぐれてしまいました。本作では、文化四年に起きた永代橋崩落事故が背景として描かれています。

哀しい出来事を描きながらも、数馬の書いた文に、読む側の心まで癒されていきます。

物語の中では、数馬の過去や、春佳とともに暮らすことになった経緯にも触れられており、家族の情に胸が締め付けられるような思いがしました。

今月(2026年2月)には、早くも第2巻となる『筆耕屋だんまり堂(二) 姉への恋文』が刊行されており、今後の展開からも目が離せません。


今回取り上げた本


書誌情報

『筆耕屋だんまり堂 心の色を文字にします』
麻宮好

祥伝社・祥伝社文庫
2026年1月20日 初版第1刷発行

カバーデザイン bookwall
カバーイラスト 長田結花

目次
第一話 藍の糸
第二話 冥土の飛脚
第三話 料理帖

本文259ページ
文庫書き下ろし

麻宮好|時代小説ガイド
麻宮好|あさみやこう|時代小説・作家群馬県生まれ。大学卒業後、会社員を経て、塾講師をつとめる。2020年、第1回日本おいしい小説大賞の応募作『月のスープのつくりかた』を改稿して、デビュー。2022年、『恩送り 泥濘の十手』で第1回警察小説新...

『三十石船〈新装版〉 取次屋栄三』|岡本さとる|祥伝社文庫

あらすじ

冬晴れの東海道を、小粋な旅姿の“取次屋”秋月栄三郎が歩いていた。栄三郎が十一のころから通っていた剣術道場の師の具合がよくないとの文が江戸に届き、弟子の又平を伴って、生まれ育った地・大坂へ向かうことにしたのだ。掛川、熱田の宮、京・伏見……旅の途中で出会う人々の縁を取り次ぎながら、栄三郎は己の剣の原点を辿っていく。大坂弁も心地よい、花の浪速の人情譚!

(『三十石船〈新装版〉 取次屋栄三』カバー裏の内容紹介より抜粋・編集)

ここに注目!

三十石船〈新装版〉 取次屋栄三
手習所と剣術道場のを兼ねた手習い道場の師匠を務める一方、裏では武士と町人の間を取り次ぎ、さまざまな揉め事を収める“取次屋”として活躍する秋月栄三郎。
その人情味あふれる活躍を描く「取次屋栄三」シリーズの新装版第15巻です。2015年9月に文庫書き下ろしで刊行された一冊が、装いも新たに登場しました。

本作では、取次屋の秋月栄三郎が、弟子の又平とともに、恩師の具合がよくないという知らせを受け、生まれ故郷の大坂へ向かいます。東海道を旅する道中、掛川宿や宮宿で思いがけない騒動に遭遇し、持ち前の好奇心とおせっかいから、次々と事件に関わっていきます。

読みどころは、野鍛冶の次男坊として生まれた栄三郎が、武士に憧れ、剣術を学ぶようになった幼少期のエピソードです。どのような子どもだったのか、そして、どのようにして武士への道を歩み始めたのかが丁寧に描かれています。

そこには、栄三郎の人生を大きく左右する、ある人物との出会いがありました。
ほろりとさせられ、同時に痛快でもある、「岡本さとる劇場」を存分に堪能できる一冊です。


今回取り上げた本

書誌情報

『三十石船 〈新装版〉 取次屋栄三』
岡本さとる

カバーデザイン 芦澤泰偉+明石すみれ
カバーイラスト 卯月みゆき

目次
第一話 東海道 情けの掛川
第二話 お礼参り
第三話 三十石船
第四話 親の欲目

本文282ページ
『取次屋栄三』(祥伝社文庫、2015年9月刊)の新装版です。

岡本さとる|時代小説ガイド
岡本さとる|おかもとさとる|時代小説・作家・脚本家1961年、大阪市生まれ。立命館大学卒業後、松竹入社。2006年、新作歌舞伎脚本『浪華騒擾記』で第35回大谷竹次郎賞奨励賞を受賞。その後フリーとなり、テレビ時代劇の脚本家、舞台作品の脚本家・...

『残照』|田中芳樹|祥伝社文庫

あらすじ

1253年、イスラム世界の征服と領土拡大を目論むモンゴル帝国は、ユーラシア大陸を西へと横断する大規模な遠征を開始しました。祖父の代からモンゴルに仕え、攻城戦と砲術に長けた漢人の勇将・郭侃は、新兵器「回回砲」を駆使し、次々と各地を攻略していきます。進撃を続ける彼には、「海に沈む夕日を見たい」という、ひとつの願いがありました。歴史に埋もれた「不敗の男」の生涯を描く、圧巻の中国歴史巨編です。

(『残照』カバー裏の内容紹介より抜粋・編集)

ここに注目!

残照

著者の田中芳樹さんといえば、SF小説の銀河英雄伝説、ライトノベルの創竜伝、ファンタジー小説のアルスラーン戦記などの長編シリーズで知られる人気作家です。その一方で、『紅塵(こうじん)』や『奔流』など、南北朝時代以降から南宋あたりまでの中国を舞台とした歴史小説も発表しています。

本書は、1253年、モンゴル帝国第四代の大可汗モンケの治世を舞台に、モンゴル王朝に仕えた漢人武将・郭侃(かくかん)が、モンケやフビライの弟・フラグ率いる十五万人の大征西軍に従軍するところから始まります。大可汗モンケの暗殺を企てたイスマイル派暗殺教団を殲滅し、バグダードの教主を滅ぼすという命を受けての出征でした。
郭侃は、火薬を用いて石や弾丸を放つ「回回砲」と呼ばれる新兵器を駆使し、イスマイル派暗殺教団の本拠地である「鷲の巣(アラムート)城」を攻略していきます……。

郭侃という人物の魅力は、ただの無敗の名将としてではなく、異民族支配の最前線に立たされながらも、技術と知略を武器に自らの役割を全うしようとする、その静かな矜持にあります。
戦場で功績を重ねながらも、「海に沈む夕日を見たい」という私的な願いを胸に秘めた姿は、巨大な歴史の歯車の中で生きる一人の人間として、強い印象を残します。

また、田中芳樹さんの筆は、個々の人物の内面に寄り添いながら、モンゴル帝国の西征という壮大な歴史的事件を、見事なスケール感で描き出しています。
戦争と文明、技術と信仰が交錯するユーラシア世界を俯瞰しつつ、名もなき存在として歴史に埋もれがちな人物に光を当てる構成は、歴史小説としての醍醐味に満ちています。
中国史やモンゴル史に詳しくなくとも、知的好奇心を刺激され、ページをめくる手が止まらなくなる一冊です。


今回取り上げた本
書誌情報

『残照』
田中芳樹

祥伝社・祥伝社文庫
2026年1月20日 初版第1刷発行

カバーデザイン 上野匠(三潮社)
カバーイラスト 松山ゆう

目次
第一章 日没の海へ
第二章 モンゴル西征録
第三章 暗殺教の国
第四章 鷲の巣城陥落
第五章 バグダード総攻撃
第六章 サラセン帝国滅亡
第七章 アイン・ジャールートの決戦
第八章 生還と帰還
第九章 余生
第十章 赤い夢

後記
解説 小前亮

本文374ページ

『残照』(祥伝社、2023年1月刊)を文庫化を機に加筆修正したもの。

田中芳樹|時代小説ガイド
田中芳樹|たなかよしき|作家1952年、熊本生まれ。学習院大学文学部博士課程修了。1978年、第3回幻影城新人賞を受賞しデビュー。1988年、『銀河英雄伝説』で第19回青雲賞を受賞。以後、SFファンタジー、中国歴史小説、西洋冒険ロマンなど人...