このコーナーでは、新しく書棚に加わった本を中心に、少しずつご紹介していきます。
『黒門町伝七捕物帖 第一巻』|捕物作家クラブ同人合作|捕物出版
子どもの頃、テレビでよく放送されていた時代劇「伝七捕物帳」。
「ヨヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨヨヨイヨイ、あ、めでてぇな」と、伝七親分が指で手締めをする場面を、今も鮮明に覚えています。
演じていた中村梅之助さんの姿が、子ども心にもとても格好よく映りました。
原作は陣出達朗さんで、春陽文庫の原作も書店に並んでいて、長年にわたり、陣出さんが生み出した時代ヒーローだと思い込んでいました。
本書『黒門町伝七捕物帖 第一巻』の出版元である捕物出版は、個人で運営されている小さな出版社です。
しかし、これまでも多くの時代小説の名作や、埋もれていた作品を掘り起こし、オンデマンド出版の形で復刊してきました。
その地道な活動には、時代小説ファンの一人として頭が下がる思いです。
あらすじ
捕物作家クラブのメンバー31名が1話ごとに分担して執筆し、昭和26年から9年7か月にわたって京都新聞に連載された連作捕物小説「黒門町伝七捕物帖」を、全十八巻に収録。
第一巻には、昭和26年3月から9月に掲載された「片輪草履」「火の見小町」「翼のある蛇」「余燼」「十七手殺し」「生埋めにされた女」「鼠とり」「神隠し」「櫛」「十本の指」「女の耳切り」「江戸名所図絵」「金魚めいわく」「裸御免の女」「肌を隠す女」「くちなし懺悔」「獅子ッ鼻のお紺」「手なし娘」「おしん殺し」「馬の笠」「身代り供養」「三つ目小僧」「蔵座敷」「徳利を抱く娘」「月の中の女」「ひとり心中」の二十六編を収録。
(『黒門町伝七捕物帖 第一巻』Amazonの内容紹介より抜粋・編集)
ここに注目!
本書で、『黒門町伝七捕物帖』は、1949年に創設された「捕物作家クラブ」に参加する作家たちによる合同企画として生み出された、“黒門町の伝七”を主人公とする時代小説だということを知りました。
捕物作家クラブは、1961年に時代小説に限定しない団体として「日本作家クラブ」と改称し、さらに1991年には「日本文芸家クラブ」と改称して、現在も活動を続けています。捕物作家クラブについては、文芸評論家の末國善己さんが巻末の解説で、設立当時のことや活動を詳述しています。
本書第一巻には、21人の作家による全26編が収録されています。
まえがき(『黒門町伝七捕物百話』〈桃源社・1954年10月刊〉)で、野村胡堂氏は、この時代ヒーローについて次のように記しています。
黒門町の伝七は、捕物作家クラブ同人の生んだ愛児である。その性格は最大公約数的で、その知能は最小公倍数的であり、捕物小説としての面白さは、一作を重ねる毎に、級数的に倍加したと言っても大した自惚では無さそうである。
この言葉からも、作家たちがいかにこの企画を愛し、楽しみながら参加していたかが伝わってきます。
複数の作家が一人の主人公を共有し、それぞれ短編を書き、それをまとめてアンソロジーとする――考えるだけでも大変な試みですが、読者にとっては、同じ主人公(伝七とその子分の竹)を軸にしながら(最大公約数)、作家ごとの持ち味や個性の違い(最小公倍数)を味わえる、実に楽しい作品集となっています。
当時の捕物小説の隆盛ぶりを、あらためて実感させてくれる企画でもあります。
今回取り上げた本
書誌情報
『黒門町伝七捕物帖 第一巻 片輪草履』
捕物作家クラブ同人合作
城昌幸、佐々木杜太郎、陣出達朗、戸川貞雄、九鬼澹、土師清二、三好一光、松波治郎、山手樹一郎、高木彬光、野村胡堂、横溝正史、村上元三、角田喜久雄、谷屋充、島田一男、瀬戸口寅雄、水谷隼、大倉燁子、柳原緑風、岡田八千代
捕物出版
2026年1月1日 オンデマンド版初版発行
表紙装画:第七話「鼠とり」挿絵 清水三重二
京都新聞 昭和26年4月30日(Public Domain)
目次
片輪草履 城昌幸
火の見小町 佐々木杜太郎
翼のある蛇 陣出達朗
余燼 戸川貞雄
十七手殺し 九鬼澹
生埋めにされた女 土師清二
鼠とり 三好一光
神隠し 松波治郎
櫛 山手樹一郎
十本の指 高木彬光
女の耳切り 野村胡堂
江戸名所図絵 横溝正史
金魚めいわく 村上元三
裸御免の女 佐々木杜太郎
肌を隠す女 陣出達朗
くちなし懺悔 角田喜久雄
獅子ッ鼻のお紺 谷屋充
手なし娘 島田一男
おしん殺し 瀬戸口寅雄
馬の笠 水谷隼
身代わり供養 大倉燁子
三つ目小僧 柳原緑風
蔵座敷 岡田八千代
徳利を抱く娘 佐々木杜太郎
月の中の女 陣出達朗
ひとり心中 城昌幸
解説 末國善己
本文284ページ
A5判ペーパーバック
出典:
「同人の愛児」『黒門町伝七捕物百話第一巻』(桃源社、昭和29年10月5日発行)
「片輪草履」から「ひとり心中」まで 京都新聞昭和26年3月11日から昭和26年9月29日まで
※本書に収録された作品には、身体の障害や人権にかかわる、差別的な語句や表現が見られますが、作品が執筆された当時の時代背景等が現代とは異なる古典的な文学作品であり、著者が故人でもありますので、本書の表記のままとしました。ご理解、ご諒承のほどをお願いいたします。




