【日々是好日】若き八州廻りと腕利きの家人が三国街道を往く

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『八州の風手控え帳』|あさのあつこ|文藝春秋

本書の主人公・一柳直四郎(いちやなぎ・なおしろう)は、関東取締出役、通称「八州廻り」と呼ばれる職に就いてからまだ二年足らず。十人いる八州廻りの中でも最も若い新参者です。

八州廻りとは、相模・武蔵・安房・上総・下総・常陸・上野・下野の八か国の村々を巡り、無宿や悪党を、幕領・私領・寺社領の別なく取り締まる権限を持つ役人のことです。捜査や逮捕といった警察権を担う存在でもあります。

あらすじ

「直四郎さま、死人が出ました」

争いごとを嫌い、甘い饅頭を愛する若い役人の一番の楽しみは、窮屈な役所を離れて村々を歩き、日記をつけること。だが――

林で首吊り死体が見つかった。
どうやら自死とは言い切れないようで……!?
直四郎は死人を調べるうち、巷でその名を轟かす「鵂(みみずく)の銀蔵」の存在に行き当たる――。

(『八州の風手控え帳』Amazonの内容紹介より抜粋・編集)

ここに注目!

八州の風手控え帳 直四郎は新参者というだけでなく、色白で若く見られ、腕っぷしにも自信がなく、できれば厄介事には関わりたくないと思っています。 しかし、江戸で上役のもと机仕事をするよりも、村々を巡り、多くの土地に足を運び、多くの人と出会える八州廻りの仕事を気に入っています。

中山道・倉賀野宿にいた直四郎のもとに、三国街道・金井宿の道案内(巡回先の土地で八州廻りの取り締まりを助ける地元の顔役)である実之助から、金井宿の空き蔵で賭場が開かれるという知らせが届きます。直四郎は急行しますが、賭場を取り逃がしてしまいます。

ところが翌朝、その蔵の近くの林で農民の首吊り死体が見つかります。
この死は自殺なのか、それとも誰かによって自死に見せかけられた殺人なのか。
さらに、その死と賭場騒ぎはつながっているのか――。
興味を覚えた直四郎は、自ら調べることにします。


「この世に、たまたまなんて、そうありはしない。まして、殺しが絡んできたら、おそらく万に一つもないはずだ。実之助、この世に起こることのほとんどは解き明かせる。なぜなら、人が起こしたことだからだ。人が起こしたことは、どんなに不可思議であっても、ややこしくても、謎であっても必ず明かせる。必ず、答えを出せるんだ。たまたまなんて、いい加減な言葉で片付けさえしなければな」

(『八州の風手控え帳』P.68より)

童顔からは想像もつかない論理的な推理と鋭い洞察力を発揮し、真相に迫っていく直四郎の活躍から目が離せません。
そして、そんな直四郎を従者として支え、巡回の旅をともにするのが、一柳家の奉公人・矢助。精悍な風貌で、物知りかつ世慣れており、探索も得意という最強の小者です。この主従コンビの活躍ぶりも、本書の大きな読みどころとなっています。

上州の、江戸よりも青みを増した空や、木々と土の香りをたっぷり含んだ風が感じられる、期待の時代小説が始まりました。

今回取り上げた本
書誌情報

『八州の風手控え帳』
あさのあつこ

文藝春秋
2026年1月30日 第一刷発行

装画 中島花野
装幀 野中深雪

目次
三国街道
 その一
 その二
 その三
 その四
 その五
 その六
江戸小石川三百坂下通り
 その一
 その二
 その三

本文254ページ
四六判ソフトカバー

初出:
「オール讀物」2024年6月号~2025年9・10月号

あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。2005年、『バッテリー』...