【日々是好日】医者と刀工、女には困難な道を選んだ二人の娘

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『志記(一) 遠い夜明け』|高田郁|ハルキ文庫

志記(一) 遠い夜明け

料理に自らの幸せを見出した女料理人・澪の奮闘を描き、料理時代小説ブームを作った「みをつくし料理帖」シリーズ、そして「買うての幸い、売っての幸せ」を体現していく主人公・幸の商いの道を描いた「あきない世傳 金と銀」シリーズで、読者の心を捉えてきた高田郁(たかだ・かおる)さん。
ファンが渇望していた新シリーズ、その第1巻となる『志記(一) 遠い夜明け』を紹介します。紹介が遅くなってすみません。

文庫の帯には、「私のライフワークとなる新シリーズです。どうか末永くお付きあい頂けますように。」という著者の言葉が掲げられています。長く続いていく物語になることが予感され、今後の展開が楽しみでなりません。

あらすじ

文化元年(1804)如月。二十四節気の清明の日、ふたりの女児が産声を上げます。 ひとりは蔵源美津。蔵源家は黒兼(くろがね)藩で代々藩医を務める家系で、祖父の教随は秘密裡に腑分けを行い、父の恵明は藩医学校「青雲館」を担う立場にありました。 もうひとりは高越暁。備前刀を手がける刀鍛冶の一族に生まれ、祖母の高越剡(ぜん)は「女忠光」の異名を取る名工でした。

成長した美津は医学を、暁は鍛刀を志します。猪突猛進で焔にも似た美津と、常に冷静で氷に喩えられる暁。女には困難とされる道を選んだふたりの人生は、十九の初夏、思いがけず江戸で交錯します。
志を胸に人生を切り拓いていく者たちの群像劇、ここに幕を開けます。

(『志記(一) 遠い夜明け』Amazon紹介文より抜粋・編集)

ここに注目!

同じ年、同じ日、清明に生まれた二人の女性。医学の道を目指す蔵源美津(くらもと・みつ)と、刀鍛冶を志す高越暁(たかこし・ぎょう)。
長年の伝統と社会の常識により、当時は女性に道が閉ざされ、「男の仕事」とされていた分野に、あえて踏み込んでいく二人の姿が描かれます。

巻末に収められた「赤みみずく付記」によれば、「志記(しき)」というタイトルは辞書には載っていない著者の造語だそうです。

(前略)史実を丹念に探った上で、たとえフィクションであっても、誰かの記憶に残るよう、各々の志と、それを叶えるための姿を書き記しておこう――そう願って、タイトルとしました。

物語は、美津と暁の歩みを描く前段として、美津の祖父で藩医の蔵源教随、そして父・恵明のエピソードから始まります。蔵源家が黒兼藩(架空の藩)において、単なる藩医の家系にとどまらず、藩主から特別な期待を寄せられる存在であることが丁寧に描かれています。
その家に生まれた美津もまた、女性でありながら医師になるという志を抱き、勉学に励んでいました。

一方、祖母が「女忠光」と称された女刀工である暁は、三年前に備前国を発ち、江戸・神田紺屋町の刀工・三石真達の屋敷で住み込みの弟子として修業を続けています。

師である真達に「暁の本性は氷」と評されるほど、暁は感情を表に出さず、心が躍ることも、悲しみに暮れることもなく、淡々と日々を過ごしてきました。その冷ややかな佇まいから、周囲には氷のように冷たい人間だと思われています。

それとは対照的に、美津は父・恵明から「あれは焔のような娘だ」と評されます。医学の道を志して以来、女性であることを理由に立ちはだかる壁に対し、その理不尽さを受け流すことができず、抗い、衝突を繰り返してきました。

しかし、強い志を抱く二人の前には、女だからと行く手を阻む男たちだけでなく、美津の父・恵明や暁の師の真達のように、彼女らを理解しようと手を差し伸べる者たちの存在も描かれていきます。

大河小説の始まりを思わせるスケール感とエネルギーに満ちた第1巻に、胸が高鳴りました。仕事に生きづらさを感じている女性たちを応援して背中を押す、「志」のある時代小説です。

これから二人を待ち受けるであろう困難、そしてその先に訪れる挫折と成長を思うと、物語の行く末への期待がふくらみ、ワクワクが止まりません。


今回取り上げた本



書誌情報

『志記(一) 遠い夜明け』
高田郁

角川春樹事務所・ハルキ文庫
2025年10月8日初版発行

装画:卯月みゆき
装幀:フィールドワーク

目次

第一話 遠い夜明け ~祖父 教随~
第二話 授けられた灯 ~父 恵明~
第三話 春の傷 ~暁~
第四話 高々と灯を掲げよ ~美津~
巻末付録 赤みみずく付記

本文311ページ
書き下ろし

高田郁(髙田郁)|時代小説ガイド
高田郁|たかだかおる(髙田郁)|時代小説・作家兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。漫画原作者を経て、2008年、『出世花』で小説家としてデビュー。2013年、『銀二貫』で第1回大阪ほんま本大賞を受賞。2022年、『ふるさと銀河線―軌道春秋...