このコーナーでは、新しく書棚に加わった本を中心に、少しずつご紹介していきます。
『傑作歴史小説! 豊臣家の野心』|尾崎士郎・南條範夫・星新一・宮本昌孝・山田風太郎|宝島社
2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」の放送にあわせて刊行された、豊臣家をテーマにしたアンソロジーの一冊です。
実は、秀吉を主人公に据えた短編作品は意外に少なく、編集者やアンソロジー編纂者を悩ませる存在でもあります。
秀吉の短編だけで一冊を編むのが難しいため、本書や『豊臣家族 歴史小説傑作選』(細谷正充編・PHP文芸文庫)のように「豊臣家」という括りでアンソロジーを構成した作品もあります。
その分、思いがけない掘り出し物の傑作に出会えることがあります。
たとえば、戦前の大ベストセラー『人生劇場』で知られる尾崎士郎さんの「墨股一夜城」(初出「特集文藝」昭和32年新春特大号)や、直木賞作家・南條範夫さんの「太閤の養子」(初出「オール讀物」昭和44年7月号)は、本書がなければ読む機会がほとんどない作品でしょう。
初出から50年以上が経過しているにもかかわらず、文体はさほど古びておらず、今なお面白く読めるのは、時代小説ならではの魅力と言えます。一方で、作品が書かれた当時の空気や味わいが感じられる点も、古い作品ならではの楽しみです。
釣瓶落しの秋の日は、あっという間に暮れていった。木曾川を控えている上に、クリークの多い蜂須賀郷は夜になると、大気がしっとりと身に迫るようである。
(『傑作歴史小説! 豊臣家の野心』「墨股一夜城」P.68 )
歴史小説に「クリーク」という英語が出てきたり、「墨俣」ではなく「墨股」の表記が使われたり、作品が書かれた時代のおおらかさを感じます。
あらすじ
秀吉をはじめ、弟の秀長、養子の秀康と秀次、嫡子の秀頼まで、豊臣家の人々を、古今の人気作家たちの短編で描いた歴史小説アンソロジーです。
尾崎士郎「墨股一夜城」
一夜で城を築いたという伝説。秀吉の出世のきっかけとなった大手柄を描きます。
宮本昌孝「やんごとなし日吉」
織田信長に仕えるため、大芝居を打った若き日の豊臣兄弟の姿。
南條範夫「太閤の養子」
徳川家康の実子でありながら、秀吉の養子となった結城秀康の数奇な生涯。
山田風太郎「虫の忍法帖」
秀吉の養子として関白にまで昇りつめながら、悲劇的な最期を迎えた秀次の怨念。
星新一「城のなかの人」
天下人の後継と期待された秀頼の非業の死によって、豊臣宗家は滅亡へと向かいます。
今回取り上げた本
書誌情報
『傑作歴史小説! 豊臣家の野心』
尾崎士郎・南條範夫・星新一・宮本昌孝・山田風太郎
宝島社
2025年12月19日第1刷発行
装丁:門田耕侍
装画:長野剛
本文イラスト:斎賀時人
目次
やんごとなし日吉 宮本昌孝
墨股一夜城 尾崎士郎
虫の忍法帖 山田風太郎
太閤の養子 南條範夫
城のなかの人 星新一
本文254ページ
【底本一覧】
宮本昌孝「やんごとなし日吉」(『武者始め』祥伝社文庫)
尾崎士郎「墨股一夜城」(「特集文藝 昭和32年新年特大号 日本歴史小説全集」河出書房)
山田風太郎「虫の忍法帖」(『くノ一忍法勝負 山田風太郎忍法帖短篇全集6」ちくま文庫)』
南條範夫「太閤の養子」『幻の百万石』青樹社文庫)
星新一「城のなかの人」(『城のなかの人』角川文庫)












