【日々是好日】第8回細谷正充賞を受賞した、戦時ミステリーの傑作

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『エレガンス』|石川智健|河出書房新社

エレガンス

第8回細谷正充賞を受賞した、石川智健(いしかわ・ともたけ)さんによる戦時ミステリー『エレガンス』(河出書房新社)を紹介します。

昨年末、東京新聞の「推し時代小説」の「2025年の3冊」で取り上げた作品ですが、書き足りないところがありましたので、あらためて、もう少し紹介させてください。

2025年は、昭和100年、戦後80年の節目の年であり、昭和を舞台にした小説も数多く刊行されました。その中でも、とりわけ強い印象を残したのが本作です。

著者について

1985年、神奈川県生まれ。
『グレイメン』で第2回(2011年度)ゴールデン・エレファント賞大賞(日本語で書かれた未発表の長編エンターテインメント小説を対象にし、プロ・アマ、小説のジャンルや応募者の国籍は問わない文学賞。受賞作は日本語版だけでなく翻訳版も刊行されるというユニークな賞でしたが、2013年度で終了)を受賞し、2012年に作家デビューしました。
『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』や『ゾンビ3.0』などの作品を持つミステリー作家で、本作では歴史ミステリーに挑戦しています。

あらすじ

終戦の8か月前から発生した、若い女性の連続首吊り事件。全員が戦時下では珍しい洋装姿で亡くなっており、スカートが花のように広がった状態が印象的だったことから、「釣鐘草の衝動」と呼ばれ、話題になっていました。

警視庁でただ一人のライカを使うカメラマンでもある巡査の石川光陽(いしかわ・こうよう)は、ある日、上司からこの首吊り事件の再捜査を命じられます。しかも、ともに捜査に当たるのは、法医学用語に「吉川線」という言葉を残した伝説の鑑識官・吉川澄一(よしかわ・ちょういち)でした。

光陽が撮影した現場写真を見た吉川は、頸部索溝や捜査記録の重要性を説きます。自殺説に傾く光陽に対し、吉川は他殺の可能性を疑っていました。

捜査が進む中で、4人の女性にはある共通点があることが判明します。激しさを増す空襲の中でも、光陽と吉川による必死の捜査は続き、吉川は決然と捜査の意義を語ります。

「犯罪を見逃すのは、罪を許容することと同義です。空から爆弾を落として罪なき人々を殺している行為を容認することと同じなんです。我々は、許されざる行為を糾弾する役目を担わなければならないんです」

さらに、光陽と吉川の前に、戦時中でありながら洋装を貫く女性の協力者が現れます。
本作は、明日の命も定かでない戦時の統制下にあっても、美しくありたいと願い、洋装をまとい、パーマネントをかけ、世界に変えられないよう抗い続けた、気高い女性たちの物語です。

(『エレガンス』Amazonの紹介文より抜粋・編集)

ここに注目!

本書は、昭和19年12月から昭和20年8月までの戦時下を舞台に、実在した二人の警察官がバディを組み、洋装女性連続不審死事件の謎を追うミステリーです。

石川光陽は、任務として東京大空襲の惨状を撮影し、後世にその記録を残した警視庁のカメラマンです。もう一人の吉川澄一は、窒息死体において被害者が抵抗した際に首に残る引っかき傷に着目し、他殺と自殺を見分ける重要な法医学的所見を提唱した人物で、「吉川線」という言葉を残した鑑識の第一人者です。

この二人のキャラクター設定と、捜査の過程の描写が非常に秀逸です。

捜査を進める二人の前に、捜査協力者として若葉千世が現れます。
彼女の登場によって、その生活や行動、交友関係までが肉体を持った人物として描かれ、物語にリアリティと広がりが生まれ、面白さが一層増していきます。

また、物語にアクセントを添える存在として、著名な作家が登場する点も印象的です。多彩な人物配置の巧みさにも感心させられました。

しかしながら、本作は単なるミステリーにとどまらず、戦争そのものを描くことにも主眼が置かれています。東京大空襲の場面は圧倒的な描写力で描かれ、息を吐くことを忘れるほどです。空爆がもたらす高温や息苦しさまで体感できるかのような連続する描写に、強い衝撃を受けました。

本作に出会えたことは、2025年の収穫の一つです。


今回取り上げた本
書誌情報

『エレガンス』
石川智健

河出書房新社
2025年7月30日初版発行

装丁:鈴木久美
装画:Q-TA
編集協力:関根享

目次
序章
第一章 ライカと釣鐘草
第二章 アパートと文学
第三章 ドレ女と吉川線
第四章 パーマネントと薬草
第五章 ファッションと小説家
第六章 カメラと推理
第七章 スカートと犯人
第八章 エレガンスと真紅
終章

本文350ページ
書き下ろし

石川智健|作品ガイド
石川智健|いしかわともたけ|ミステリー作家1985年、神奈川県生まれ。2011年、「グレイメン」で第2回ゴールデン・エレファント賞大賞を受賞し、2012年、同作でデビュー。2025年、『エレガンス』で第8回細谷正充賞受賞。時代小説SHOW ...