【日々是好日】「べらぼう」ロスに効く、江戸の家族小説

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『雀ちょっちょ』|村木嵐|文藝春秋

雀ちょっちょ2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」の最終回(2025年12月14日)の放送から10日が経ちましたが、いまだ「べらぼう」ロスが続いています。
絵師を描いた番組はこれまでもありましたが、1年を通して江戸の出版業界の立役者・蔦屋重三郎の生涯を描いた本作は、まさに空前絶後の快挙でした。私も、毎週ワクワクしながら視聴しました。

本作では、蔦重の時代を生きた文化人――絵師、戯作者、学者、版元など――を俯瞰的に知ることができ、それぞれの活躍ぶりも印象的に描かれていました。江戸文化を学ぶうえで格好の教材とも言えるでしょう。
もちろんドラマですので、史実通りではない部分もありますが、各人物の輪郭をつかむには十分な内容だったと思います。

村木嵐(むらき・らん)さんの『雀ちょっちょ』(文藝春秋)は、「べらぼう」でも主要な登場人物の一人であった 大田南畝 を主人公としています。ドラマでは桐谷健太さんが演じていました。

著者について

村木嵐さんは、大学卒業後、会社勤務を経て、司馬遼太郎氏の家事手伝いとなり、その後、司馬夫人の個人秘書を務めたという、ユニークな経歴の持ち主です。

2010年には、天正遣欧少年使節の一人・千々石ミゲルを描いた『マルガリータ』で第17回松本清張賞を受賞しました。
また、2023年には、生まれながらに障がいを持ち、意思疎通に困難を抱えていた将軍・徳川家重と、その傍らで支え続けた小姓・大岡忠光との絆を描いた『まいまいつぶろ』で、第12回日本歴史時代作家協会賞作品賞および第13回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞しています。

近作には、田沼意次のイメージを刷新する『またうど』もあります。

あらすじ

平賀源内から高い評価を受けたことをきっかけに、瞬く間にスターダムへと駆け上がった大田南畝。蔦屋重三郎とも交流を深め、江戸の狂歌界を牽引する存在となりますが、田沼意次の失脚と松平定信の台頭により、出版界には粛清の嵐が吹き荒れます。一方、長男・定吉には、大田の家にときおり現れる狂気の萌芽が見え――。

狂歌への思いと家族愛。知られざる葛藤を描き切る、感動の歴史長編。

(『雀ちょっちょ』表紙カバー帯の紹介文より抜粋・編集)

ここに注目!

主人公・大田南畝(直次郎)には、二つの顔があります。 一つは、江戸狂歌の第一人者・四方赤良(よもの・あから)として知られ、寝惚(ねぼけ)先生など多くの号を持ち、戯作や随筆、漢詩などで幅広く活躍した天才文士としての顔。
もう一つは、御家人で幕府御徒の子として生まれ、「学問吟味」で御目見得以下の甲科及第首席合格となり、支配勘定に任用され、着実に出世していく能吏としての顔です。

この二つの顔が大きく入れ替わる転機となったのが、老中・田沼意次の失脚と、新たに老中首座となった松平定信による寛政の改革でした。

本書では、筆を折り、幕吏として立身出世の道を歩んでいく南畝の姿が描かれます。
その決断の背景にあった葛藤や家族の問題に焦点を当て、丹念に物語が紡がれていきます。

本書の魅力は、絢爛たる江戸文人の世界を描くだけでなく、家族を深く愛した一人の男の物語として描かれている点にあります。心に染み入る、江戸の家族小説です。

蔦屋重三郎をはじめ、狂歌師の平秩東作(へづつ・とうさく)や宿屋飯盛(やどやの・めしもり/石川雅望)、塙保己一など、多彩な文人たちが登場し、南畝と交流を重ねていきます。
「べらぼう」で江戸狂歌の隆盛を知った読者にとっても、たいへん興味深い一冊となるでしょう。


今回取り上げた本



書誌情報

『雀ちょっちょ』
村木嵐

文藝春秋
2025年12月10日第1刷発行

装画:野村文挙「レンゲ草に雀」飯田市美術博物館蔵
装丁:野中深雪

目次
第一章 誌魔
第二章 ゑびす哥
第三章 絶笑
第四章 四方のあか
第五章 くるりころり
第六章 蜀山人
第七章 江戸雀

本文331ページ

初出誌:「オール讀物」
誌魔 二〇二四年六月号
ゑびす哥 二〇二四年七・八月号
絶笑 二〇二四年九・十月号
四方のあか 二〇二四年十一・十二月号
くるりころり 二〇二五年一・二月号
蜀山人 二〇二五年三・四月号
江戸雀 二〇二五年五・六月号

村木嵐|時代小説ガイド
村木嵐|むらきらん|時代小説・作家1967年、京都府京都市生まれ。京都大学法学部卒業。会社勤務を経て1995年より司馬遼太郎家の家事手伝いとなる。後に司馬遼太郎記念財団理事長で司馬夫人である福田みどりの個人秘書を務める。2010年、『マルガ...