三人の英傑に仕えた「戦国の文官」の葛藤と喜び
このコーナーでは、新しく書棚に加わった本を中心に、少しずつ紹介していきます。
『筆と槍 天下を見届けた男』|佐藤巖太郎|PHP研究所
佐藤巖太郎(さとう・がんたろう)さんは、2011年に「夢幻の扉」で第91回オール讀物新人賞を受賞してデビューし、2017年には『会津執権の栄誉』で第157回直木賞候補となり、同作で第7回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞された歴史小説家です。
会津や仙台、米沢など、戦国から江戸前期の東北地方を舞台に、地域に根差した人物を描く作品を主に執筆されています。端正な筆致と深い人間描写でも定評があります。
本作は、河北新報などのブロック紙・地方紙に連載された小説に加筆修正をして、単行本化したものです。主人公は和久又兵衛宗是(わく・またべえ・そうぜ)。信長、秀吉、政宗という三人の英傑に右筆(ゆうひつ)として仕えた「戦国の文官」です。
戦国時代に乱世を生き残るためには、合戦に強いことが重要ですが、それだけで天下を取れるわけではありません。戦さに強くても、天下人にはなれません。
「間に合わぬものに間に合い、届かぬものに届き、乱れるものを整え、まとまらぬものをまとめあげる。人々の道理をいともたやすく覆す。天下人とはそういうものでござる」
(『筆と槍 天下を見届けた男』P.14より)
宗是は、晩年、天下人について、前述のように述懐しました。
そして、その裏には複雑な政治と交渉の駆け引きがありました。
宗是は、織田信長、豊臣秀吉という天下人のもとで右筆を務めました。
右筆とは、書状の代筆を担う役目であり、公的な文書の作成にとどまらず、文官の側近として政務に関わることもありました。
さらに、信長の意思を配下の大名に伝える役目や、敵将を味方に引き入れるための対外交渉も行い、「取次(とりつぎ)」と呼ばれることもありました。
又兵衛(後の宗是)は、最初から「文(筆)」で仕えていたわけではありません。キャリアの始まりは、畿内を統べていた三好長慶(ながよし)のもとで、「武(槍使い)」として奉公したことでした。
では、どのような経緯で信長のもとに入り、右筆として活躍するようになったのでしょうか。
また、武人の心を持つ文官は、血生臭くも華やかな戦国の世をどのように生き、何を見たのでしょうか。
戦場で槍を振るうことに焦がれながらも、天下人の傍らで日々筆を執る宗是。「交渉人」の視点から、歴史が大きく動く瞬間を活写した歴史小説です。
今回取り上げた本
書誌情報
『筆と槍 天下を見届けた男』
佐藤巖太郎
PHP研究所
2025年11月28日第1版第1刷発行
装丁:芦澤泰偉
装画:山本祥子
目次
序章
第一章 転変・信長の右筆
第二章 凶変・本能寺
第三章 変幻・隻眼の将
第四章 異変・政宗と氏郷
第五章 政変・関白追放
第六章 変革・関ヶ原
第七章 変遷・大坂の陣
終章 不変・蛍鳴く時
本文413ページ
2024年2月から2025年7月にわたって、河北新報、山陰中央新報、新潟日報、中国新聞など各紙に順次掲載された作品を加筆修正したもの。







